約 1,746,310 件
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/9171.html
前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔 ウルトラマンゼロの使い魔 第五十五話「空間X出現」 宇宙蜘蛛グモンガ 四次元怪獣トドラ 登場 人口三十万を誇るハルケギニア最大の都市である、ガリアの王都リュティス。その東の端には、 ガリア王家が暮らす宮殿ヴェルサルテイルが位置している。この宮殿の中の一つ、プチ・トロワという 小宮殿の中で、一人の少女がベッドに腰掛けていた。 すらりと伸びた肢体に整った顔立ち。美人の要素を余すところなく備えているが、高慢さが浮き彫りに なっている目つきと、全身から発している苛立ちがそれらを台無しにしていた。彼女は絶え間なくコツコツと かかとで床を鳴らしている。 「遅い……。あの人形娘はまだなの?」 少女は部屋の隅に控える侍女に問いかける。侍女は苛立つ少女におびえながら、恐る恐る返答する。 「え、えっと……、その、シャルロットさまは……」 その言葉が出た途端、少女はベッドから跳ね、侍女に詰め寄って耳をつねり上げた。 「いま、なんて言ったんだい! ええおい! こらッ!」 「も、申し訳ありません! イザベラさま!」 「あいつはただの人形なんだよ! 今じゃわたしのただのおもちゃなのさ! わかったら二度と “さま”なんかつけるんじゃないよ!」 侍女を叩いていじめる少女の名はイザベラ。国王ジョゼフ一世の一人娘である、要するに王女。 当然タバサの従姉妹なのだが、権力を得たイザベラは任務にかこつけて毎度タバサをいじめ抜いているのだ。 日頃の傲然とした振る舞いも重なり、彼女の評判は内外問わずに低い。 「人形七号さま! おなり!」 その時、衛士がタバサの到着を告げた。ほどなくして扉が開かれ、イザベラの私室にタバサが姿を見せる。 タバサはイザベラより身長が頭二つ分も小さいが、魔力は反対にイザベラよりずっと勝っている。 既にスクウェアクラスに手が届きそうなタバサに対し、同じガリア王族の血が流れているはずの イザベラは凡人の域を出ない。その劣等感から来る嫉妬が、イザベラがタバサを虐待する理由なのだ。 「ようやく来たね、シャルロット。今回は緊急と招集状に書かせたはずだったのだけど、 まさかそれが読めなかったなんてことはないわよね?」 厭味ったらしく問いかけるイザベラだが、タバサは何も言わず、何の感情も窺えない目でイザベラを見返すのみ。 最初のキメラドラゴン討伐から帰ってきて以来、タバサはずっとこうだ。自分がどんな嫌がらせを しようとも、眉一つ動かさない。それが逆にイザベラの心をますますかきむしる。 「……ふんッ、まぁいいわ。こんなことを言うために呼びつけたんじゃないのだから。お前たち、 例のものを用意するのよ!」 侍女たちに怒鳴りつけると、彼女らは慌てて一式の服装を運んできた。それはイザベラが 普段着ているものによく似ているドレスだった。 「早速任務を伝えるわ。シャルロット、あなたにはわたしの影武者をしてもらう」 そう伝えた瞬間……珍しく、タバサの表情に変化が起こった。眉間に皺が刻まれ、冷徹な怒気を醸し出す。 その冷たい怒りは、普段イザベラの癇癪につき合わされているプチ・トロワの使用人たちの背筋に 冷たいものが走るほどであった。 「ち、ちょっと、何を怒ってるのよ。人形娘らしくもない」 イザベラもまた、タバサに言い知れぬ恐れを抱いて、嫌味の一つもなしに事情を説明し出した。 「まさか、わたしがまたあんたを嵌めようとしてるなんて思ってるんじゃないでしょうね。違うわよ。 わたしだって、同じことを繰り返したりはしないわよ」 春先に一度、タバサがイザベラの影武者をさせられたことがあった。しかしそれはイザベラが タバサを陥れるために仕組んだ策略で、タバサはインテリジェンスソード『地下水』に痛い目を見せられた。 しかし関係のない人まで巻き込んだ陰湿な仕打ちにはさすがのタバサも我慢がならず、その時ばかりは イザベラに仕返しをした。 無論普段のイザベラならただでは済まさなかったことだろうが、その件は彼女の独断行動ということもあり、 あんまり騒ぎ立てると自分の首を絞めてしまうので、暗黙のままになかったことにしたのだった。 その件を想起させるような任務を与えるイザベラの真意とは。 「実は近頃リュティスでは、人間が連続して蒸発する事件が相次いでいるの。それも、貴族平民関係なく。 ……これ、何かを思い出さないかしら?」 イザベラが言っているのは、外宇宙からやってきた宇宙人たちの最初の侵攻計画のことだ。 彼らはハルケギニアの主要都市の同時攻撃に先立って、トリステインの首都トリスタニアで 人間をさらい、人質にした。その時と状況が酷似している。 「もし今回の蒸発騒ぎがあの事件の時と同じなら、王女のわたしといえども安全とは言い切れないわ。 むしろ、最も狙われる危険があるかもしれない。そこで、騒動が収束するまであんたはわたしの 身代わりとなるの。もちろん、嫌とは言わせないわよ」 イザベラの指示で、タバサは侍女たちの手で王女の姿に着飾られた。次いで、顔を変化させる 『フェイス・チェンジ』の呪文でイザベラそっくりの顔立ちとなる。それから身体つきの差異を 埋めるための細工を施して、影武者は完成した。 タバサは今一度、イザベラの身代わりとなった。 さて、イザベラの影武者を務めることとなったタバサだが、これといってやることがなく プチ・トロワでじっとしているだけであった。 イザベラは父王に官職を頼んだ結果、北花壇警護騎士団の団長の椅子を与えられている。 しかし公式には存在しないことになっている北花壇騎士は平常時には仕事が少なく、 イザベラはその少ない管理業務などもほぼ部下に任せっきりにしている。そのため、 何か特別なことでもない時には、宮殿で暇を持て余しているのが常なのだ。 大体はゲームなどをして退屈しのぎをしているが、タバサはもちろんそんなことに興味を示さない。 ただ、何をするでもなく、イザベラの振りをするばかりだった。 「ほら! この窓枠のところ、汚れが残ってるじゃない! あなたたちは掃除もまともに出来ないの!?」 本物のイザベラはこの間、侍女に扮している。そしてここぞとばかりに宮殿内をうろつき、 侍女いびりに精を出していた。どれも言い掛かりに近いものだが、侍女たちは変装しているとはいえ イザベラに頭が上がらず、ひたすらに頭を下げるばかり。 「……おいたわしや、シャルロットさま。またもあの王権の簒奪者の娘に、良いように弄ばされなさるとは……」 椅子に座ってじっとしているタバサに、一人の若い騎士が近づいて、誰にも聞かれていないことを 確かめてからタバサに囁きかけた。 彼は東薔薇騎士団のバッソ・カステルモール。表向きはジョゼフとイザベラに忠を捧げているように 見せているが、その胸の内は亡きシャルルに忠義を向けており、タバサの味方になることを決めている者なのだ。 彼のみならず、東薔薇騎士団は全員シャルル派であり、タバサのひと声でもあれば決起する心積もりでいる。 しかしタバサには、そのつもりはない。敵討ちは、一人でやるつもりなのだ。 「シャルロットさま、お気をつけを。イザベラの申したことに間違いはありませぬ。犯人がいつ如何なる時に あなたさまの御身を狙うものか、計り知れません。我々も目を光らせますが、一時たりとも気を緩めなさらぬよう お願い致します」 それは言われるまでもない。タバサが小さく首肯すると、カステルモールはそっと彼女の側を離れた。 タバサはその後もじっとしたまま。しかし警戒だけは、一瞬でも緩めることはなかった。 「お姉さま、またあの憎らしい従姉姫の姿になんかされちゃって……」 窓の外からは、シルフィードはこっそりと隠れながらタバサの様子をハラハラと見守っていた。 「従姉姫は、今回は裏はないみたいなこと言ってたけど、そんなこと分かりっこないのね。 またあいつの悪だくみかもしれないの。このまま、何事もなく終わるといいんだけど……」 シルフィードはイザベラへの猜疑心が強いので、彼女の謀略の可能性を捨て切れないでいた。 そのため、部屋の端で未だに侍女たちに難癖つけて困らせているイザベラを恨めしくにらむ。 そしてタバサに視線を戻したところ――ほんの数秒前まであったはずの彼女の姿が、忽然となくなっていた! 「えッ!?」 唖然とするシルフィード。さっきまでタバサが座っていた椅子の上には、まるで彼女が 幻だったかのように何もなくなっていた。このほんの短い間に、タバサはどこへ消えた? 用を足しに席を立ったなんて訳では断じてあるまい。シルフィードが目を離していた間は たったの数秒。普通に席を立ったなら、まだ部屋のどこかにいなければならないはずだ。 「お、お姉さま! た、た、大変なのね! お姉さまが――さらわれちゃった!?」 思わず身を乗り出して、そう叫んでいた。 部屋の中ももちろん、大騒ぎになっていた。カステルモールを始めとして、騎士や使用人らが タバサの消滅に大混乱を起こしている。 「し、シャルロットさまが本当に消えてしまわれた!」 「おい! 誰かその瞬間を見ていた者はいないか!? 衛士、人形七号がどこへどうやって さらわれたか、見ていなかったのか!」 「わ、分かりません! 本当に、何の前兆もなく消えてしまって……!」 カステルモールはこの世の終わりかのような顔をしている。他の者たちも腰を抜かす者、 現実が受け入れ切れずに立ち尽くす者、狂ったようにわめき立てる者と様々な反応だが、 全員がタバサの身を強く心配していた。皆、心の底ではタバサを慕っているのだ。 そしてイザベラは、周りの喧騒が耳に入っていないかのように呆然としていた。 「ほ、本当に、消えてしまった……」 実はイザベラは、言うほど真剣に人間消失の危険を重大に受け止めてはいなかった。街の不穏な空気とは 縁遠い場所にいるので、自身の周りにそんな事件が発生するとは本気で考えていなかったのだ。それでも一応 念のためにと、タバサを呼びつけたのだったが……。 「まさか、本当にシャルロットがさらわれるなんて……」 とつぶやいてから、ハッと我に返って自分に言い聞かすように発する。 「ふ、ふん。あの“人形娘”も、所詮は人の子だったってことかしら」 と強がってみせるも、その顔からは、複雑な感情の色が強く表れていた。 しかし……その時に、自分の視界がいきなりグルグルと回転するのを感じた。 「えッ!? な、何!?」 突然の事態に驚愕するイザベラ。だが自分の身に起こっていることを呑み込む暇すらなく、 どこか別の場所に身体を投げ出された。 「あいたッ! な、何なのよ、一体……」 したたかに打った腰をさすりながら立ち上がって、周りを確認する。 ここは、プチ・トロワの室内ではなくなっていた。雑木林の真ん中のような、同時にジャングルの 真っ只中のような……不気味な雰囲気の森林の中であった。少なくとも、ヴェルサルテイルの周辺には こんな森はない。そして周りには、人の影一つない。完全に孤立していた。 「う、嘘でしょう!? まさか、わたしまでどこかへ連れさらわれたの!?」 イザベラの問いに答える者はいないが、彼女はそれが正しいと実感した。 「ど、どうしてこんなことになるのよ! これじゃあ、シャルロットを影武者に仕立てた意味が ないじゃない! 衛兵は何をやってたのよッ!」 身に降りかかった理不尽に憤慨するが、それに取り合う人間もいない。やがて虚しいことに気づいて、 仕方なくトボトボと歩き出す。 「はぁ……とにかく、ここがどこかだけでも確かめないと……」 力のない様子で森の中を彷徨うが……その時に、身体のそこかしこに妙な違和感を覚えた。 「ん? 何かしら……」 ふと自身の身体を見下ろすと……いつの間にか身体に、巨大なダニのような虫が何匹も張りついていた! 「いッ、いやあああぁぁぁぁぁぁぁッ!?」 イザベラも女の子。こんなおぞましいものには耐えられない。半狂乱になりながら虫を払いのけ、 一匹を手で叩き潰す。 弾けた虫の後には、赤い血がベットリと付着していた。吸血生物なのだ。 「ひぃッ……!」 顔が引きつるイザベラだが、どうにか冷静になって杖を引き抜くと、魔法の光を払った 吸血虫たちに放ち、一匹残らず焼き尽くした。 「はぁ、はぁ……ど、どうなってるのよ、この森は……」 虫を死滅させると、イザベラは大きく息を切らした。狂乱のあまり、必要以上に精神力を削ってしまったのだ。 ともかく、これで安心……と思いきや、急に足が引っ張られてその場で転倒した。 「きゃあッ! な、何!?」 今度は何だと足を見れば、両足首に蔓のような植物が巻きついて彼女を引き倒していた。 「こ、このッ、植物なんかがわたしに触れるんじゃないわよ……!」 イザベラは魔法で植物を切ろうと思うも、虫相手に魔法を使い過ぎて、うまく発動することが出来なかった。 「ギャアアアアァァァァ!」 更には茂みの中から、人間ほどの大きさがある蜘蛛のような怪物が、三つの鼻の穴から 青黒い煙を噴出しながら出現した。人食いの小型怪獣、グモンガだ! 「ひッ!? い、いやあああああぁぁぁぁぁぁぁッ!」 「ギャアアアアァァァァ!」 命の危険を感じて絶叫するイザベラだが、足に植物が巻きついていて逃げることが出来ない。 グモンガは恐慌する彼女の遠慮なくにじり寄っていく。 「い、いやぁッ! 誰かッ! 誰か助けてぇぇぇ――――――――――!」 恥も外聞もなく喚くが、グモンガは無情にも大口を開いてイザベラに食いつこうとする……! その瞬間に、一陣の突風が巻き起こった。風はグモンガを吹き飛ばし、イザベラから引き離す。 仰向けに倒れるグモンガ。 「ギャアアアアァァァァ!」 「えッ、今のは……」 グモンガの反対側から飛び出してきたのは、タバサだった。プチ・トロワから離れたからか、 『フェイス・チェンジ』が解けて元の顔に戻っている。彼女は隠し持っていた杖に魔法の刃を纏わせて、 それで植物を切り払ってイザベラを助けた。 「し、シャルロット……」 まだ腰が抜けているイザベラを、タバサは背にかばう。その時にグモンガがひっくり返って再び迫り出した。 「ギャアアアアァァァァ!」 「……『ウィンディ・アイシクル』」 呪文を唱えるタバサ。杖の先から氷の槍が飛び、グモンガの脳天を貫いた。グモンガは最後のあがきに ガスを噴き出したが、すぐに目の光が消えてガクリと倒れ伏した。 「……怪我は?」 一旦危険が去ると、タバサはイザベラに短く問いかけた。 「な、ないわ……」 「そう」 それだけ確認して、正面に向き直る。そのそっけない態度に、イザベラはむかっ腹が立った。 「人形七号! いるならさっさと助けに来なさいよ! 主のわたしの危機に真っ先に駆けつけるのが、 北花壇騎士のあんたの仕事でしょうが! ……って、それより、その格好はどうしたのよ?」 タバサの服装は先ほどのドレスのままだが、袖が肩から千切れていて、スカートの裾は膝の上まで 切り下とされていた。このことについて、タバサは短く答える。 「動きづらかったから、千切った」 「ち、千切ったって……冠もどこへやったのよ!?」 「重いから置いてきた」 「お、置いてきたぁ!? 信じられないッ! あの冠はわたしのものなのよ!? 何てことしてるのよ!!」 ガミガミとタバサを叱りつけるイザベラ。だがタバサはいきなり顔色を変えると、イザベラの 口を手でふさいだ。 「んぷッ!? な、何を……!」 「静かに! ……駄目、気づかれた……!」 「パア――――――オ!」 木々の向こうから、獣の雄叫びが聞こえた。 直後に森にはふさわしくないような、長い牙の海獣型の巨大生物がメキメキと木々を踏み倒しながら、 タバサとイザベラの方へと進撃してきた! 四次元怪獣トドラだ! 「か、怪獣……!」 「早く、こっちに!」 タバサがイザベラの手を引き、トドラとは反対方向へ駆け出す。二人を追いかけるトドラ。 しかし、小柄な体躯に見合わず全身を鍛え抜いているタバサと違い、日頃寝そべってばかりの イザベラに体力はない。すぐに息切れを起こす。 「はぁ……はぁ……ち、ちょっと待って……」 「待てない」 「で、でも足が……あぁッ!」 イザベラは足がもつれて転倒する。焦るタバサ。トドラはなおも執拗に追いかけてきている。 こういう時に頼れるシルフィードはいない。仕方なく『レビテーション』でイザベラを 持ち上げようとするが、トドラはもうすぐそこまで迫ってきていた! 「パア――――――オ!」 「きゃああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」 絶叫するイザベラ。最早魔法を発動している暇もない。二人の命運は、こんなところで おしまいになってしまうのか!? ズシン……ズシン……。 「?」 さしものタバサも青ざめたその時、何か重いものの足音がかすかながらも聞こえた。トドラの ものではない。トドラはもう立ち止まっている。 「な、何……まさか、新しい怪獣……!?」 ますますおびえるイザベラ。最早地響きのような足音は、徐々に大きくなっていく。どうやらこちらに 近づいてきているようだ。 「パア――――――オ!」 トドラがタバサたちから目を離し、その足音の主の方向へと身体の向きを変えた。 そして、タバサとイザベラの目にも、足音の主の姿がはっきりと映った。 「あれは……!」 それは怪獣とは異なる、巨人であった。銀と赤と青の体色。トサカ状になっている頭部の額には クリスタルのようなものが埋め込まれている。胸には金色のプロテクターと、青い輝きの発光体……。 「あ、あれが噂の、ウルトラマンゼロ……?」 ゼロを見たことのないイザベラがつぶやくが、タバサは否定する。 「違う……新しい、ウルトラマン……」 実物を知るタバサは、ゼロとは別人だとすぐ分かった。『ファンガスの森』で目撃したウルトラマンの 方に似ている。しかし彼、ウルトラマンガイアとも異なる戦士であることも明白だった。 「シュワッ!」 二人にとって未知のウルトラマンは、やや前かがみのファイティングポーズを取ってトドラと対峙した。 「パア――――――オ!」 トドラは自分よりも巨躯の巨人に対し闘争心を駆り立てられたのか、一直線にウルトラマンへ 突撃していく。ウルトラマンはどっしりと足を開いて構え、それを待ち受ける。 そして、トドラが激突! 舞い上がる膨大な量の砂埃! だが、ウルトラマンは微動だにせずに突進を受け止めた! 「す、すごい力……!」 イザベラがあんぐりと口を開いた。ウルトラマンの強さというのを伝聞でしか知らない彼女にとっては、 巨大怪獣を物ともしないウルトラマンの超パワーは新鮮だった。 「ンンンンンッ! デヤァァァッ!」 ウルトラマンは受け止めたトドラをそのまま抱え込み、モリモリと腕の筋肉を際立たせて、 トドラの巨体を持ち上げヒコーキ投げ! トドラが重力を無視しているかのように軽々と空へ飛ばされていく! 「パオ――――――――!?」 「ジュアッ!」 投げ飛ばしたトドラへ向けて、ウルトラマンは両腕を十字に組んだ。その右手から青白い光線が ほとばしり、日輪の如き光の輪を発しながらトドラに直撃。トドラは一瞬で、空中で跡形もなく爆散した。 「強い……!」 新たなウルトラマンの実力に感服するタバサ。目にした光の戦士は三人目の彼女だが、 今目の前のウルトラマンは何の苦もなく怪獣を圧倒した。何ともパワフルな、凄腕の戦士だと見受けられる。 トドラを瞬殺したウルトラマンは振り返って、タバサとイザベラの方を見下ろした。ウルトラマンを 見慣れていないイザベラは思わずたじろぐ。 「フッ!」 するとウルトラマンは、安心させるかのようにサムズアップをしてみせた。 「……?」 ハルケギニアにはサムズアップがないので今一つ意味は伝わらなかったが、敵意がないことは イザベラにも感じ取れた。 そしてウルトラマンは光を発しながら、スゥッと消えていった。その後二人がしばし立ち尽くしていると、 森の奥から人影が駆けてくる。 「おーい! そこの君たち! 怪獣に襲われてたみたいだったけど、大丈夫だったか?」 灰色と赤色を基調とした、身体にピッチリとくっつく、ハルケギニアにはないタイプの服装で 固めた青年だ。爽やかというより、熱血という雰囲気を放っている。袖には大きな「S」の上に 「GUTS」という形の模様を描いた紋章が縫い込まれている。 「大丈夫……」 タバサが思わず返答すると、青年は安心したようにうなずいた。 「よかった。危ないところだったな。怪獣はダイナが倒してくれたし、しばらくは安全だろう」 「ダイナ……あのウルトラマンは、ダイナという名前……?」 「ああ。ウルトラマンダイナだ!」 「ち、ちょっと待ちなさい!」 気さくにタバサと話している青年に、イザベラが問いかける。 「あんたは一体誰なの? いきなり話し掛けて、名前も名乗らないなんて失礼だわ!」 「俺か? 俺はいわゆる風来坊さ」 自身をそう称する青年は、ニカッと笑いながら名乗った。 「名前はアスカだ。よろしくな!」 前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/9172.html
前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔 ウルトラマンゼロの使い魔 第五十六話「異次元の三人」 音波怪人ベル星人 異次元人アクゾーン 登場 ガリアの王都リュティスで人間が連続で蒸発する事件が発生し、イザベラに影武者を命じられたタバサ。 しかしその両人が一瞬の内に、どことも知れぬ怪しい森の中へ放り出されてしまった。そこに襲い来る怪獣トドラ。 絶体絶命かと思われたその時、見たことのないウルトラマンが参上、二人を救う。その後に一人の青年が 二人の元へと現れた。自身を風来坊と称する青年は、ウルトラマンをダイナ、そして自分をアスカと名乗った……。 「私はタバサ。こっちはイザベラ」 タバサはアスカと名乗った風来坊に、自身たちを短く紹介し返した。するとイザベラが憤慨する。 「私の名前をそんなおざなりに唱えないでくれる!? 私はガリア王国現国王ジョゼフ一世の ただ一人の王女、始祖ブリミルの由緒正しき血筋を受け継ぐ、高貴な血統なんだよ!」 とまくし立てるが、 「ふーん。偉い人なんだな」 アスカがそっけない反応なので、ガクッと肩を落とした。 「ちょっと! たかが平民の分際で、このイザベラさまに対してその態度は何なのよ!? 無礼極まりない!」 怒りの矛先をアスカに向けるが、アスカは烈火のような憤怒をぶつけられても平然としていた。 このやり取りをプチ・トロワの召使いたちが見ていたら、卒倒したことだろう。 「そう言われても、俺はきみたちとは違う国の人間だからさ、ガリアとかシソブリミルとか 言われても、何のことだかわかんないんだよ」 アスカが「違う国の人間」と言ったことに、タバサが関心を抱く。 「どこの生まれなの? ハルケギニア大陸では、ない?」 「違うよ。ネオフロンティアスペースの地球ってところなんだけど、きみたちの国からは 遠すぎるから、きっと名前も知らないだろうね」 ネオフロンティアスペースのチキュウ……どういうところなのだろうか。 そういえば、この人はどことなく雰囲気がルイズの使い魔、サイトに似ている。もしや同郷だろうか。 そうタバサが考えていたところ、アスカがハッと明後日の咆哮を見上げ、タバサとイザベラに警告する。 「気をつけろ! 新手の敵が近づいてる!」 「えッ!? 嘘!?」 敵、と聞いて、イザベラが大いに脅えた。その直後に、彼らの耳に鈴の音に似た謎の音が飛び込む。 「くッ! この音は……!」 「うッ……!?」 「な、何!? 頭が、割れるように痛いぃぃぃ!」 その途端に、三人とも急激な頭痛を感じて頭を抱えた。タバサが痛みをこらえながら音の鳴る 方向を見上げ、思わず息を呑む。 いつの間にか森の真ん中に、一つ目の虫を混ぜたかのような巨人が立っており、こちらを 見下ろしているのだ! 激しい頭痛を伴う音波は、怪巨人が出しているものに違いない。 「ベル星人! くッ!」 アスカは怪巨人をそう呼び、腰のホルスターから青と黒の奇抜な形状の銃を抜いた。素早く照準を ベル星人に合わせ、引き金を引く。 銃口からは光の弾丸が飛び、はるか遠くのベル星人に見事に命中した。そのダメージにより ベル星人がよろめく。 「その銃……」 「ガッツブラスターって名前なんだ。見てろよぉ……!」 タバサはアスカの使う銃が、ハルケギニアに普及しているものとは比較にならないほどの 高性能であることに目を見張った。そして先日目に掛けた、ギラッガスが策略のために 配布した銃に似ていると思った。 ベル星人は胸の前で両手をバツの字に組むと、残像現象による分身を行いながら移動する。 しかしアスカはその奇怪な動きを見切り、ベル星人の移動先を正確に狙い撃ちした。光弾は再び ベル星人に命中する。 二発目の攻撃により、ベル星人の姿がスゥッと溶け込むように消えた。それと同時に、 脳を直接苛む音波攻撃もやむ。 「た、倒したの……?」 イザベラが顔を上げて恐る恐る訊ねると、アスカが答えた。 「攻撃に驚いて退散しただけさ。それより見つかったのがまずい。敵の追っ手が来るかも。 早く場所を移ろう……」 とまで言いかけるも、また何かの気配に気がついて顔をしかめる。 「いや、もう来た。隠れるんだ!」 「あッ、ちょっと!」 アスカはイザベラとタバサの手を引いて、近くの草むらの陰にまぎれ込んだ。直後に、 追っ手らしき者たちが複数駆けつけてくる。 黄色い服の上に簡素なデザインの鎧兜を被った、一般兵という感じの集団だった。肌は一切見えない。 銃で武装しており、その人数と先ほどから異常事態続きで精神的に参っているイザベラはすっかり脅える。 「ひッ……!」 そしてたじろいだせいで、パキッ、と足元の小枝を踏んでしまった。 その音により、兵士たちがこちらの存在に気がつく! 「まずい! うらッ!」 相手が攻撃する前に、アスカが自分から飛び出てガッツブラスターの連射で兵士を撃ち抜く。 タバサも氷の槍を飛ばして援護し、兵士たちは瞬く間に全滅した。 「ふぅ。危ないところだったな」 ひと息吐いたアスカは、クルリとイザベラに振り向く。イザベラはビクッと震えた。 今のは自分の失態だ。何か責められるのでは……と思ったが、アスカはこう聞いてきた。 「大丈夫だったか?」 「え? ええ……」 「そっか。よかった」 拍子抜けして反射的にうなずくと、アスカは微笑んでそれきり何も言わなかった。タバサは、 イザベラには目もくれずに兵士の死体を用心深く検分している。 (……な、何だい! どこの馬の骨とも知れない平民が偉そうに! シャルロットも、寛容さを 見せつけて優位に立とうって訳!?) 糾弾されなかったことに一旦はほっとしたイザベラだが、すぐに二人に対して逆恨みの感情を抱いた。 歪んだ自尊心とタバサへの劣等感が根強い彼女は、許されたことに素直に感謝できないのだ。 イザベラが悶々としている一方で、やるべきことをやっているタバサがアスカに尋ねる。 「この兵隊は、何者?」 「こいつらは……」 アスカが兵士の一人の面を剥ぎ取る。その下から出てきた顔は……鱗に覆われた魚類か 爬虫類のような異形の顔だった。 「……!」 「ひぃッ! 何よこいつら!?」 「こいつらは確か、アクゾーンっていう異次元人だ。ということは、遠くないどこかにこいつらの 本拠地があるはずだ」 アスカは周囲を見回しながら告げる。 「逃げ回ってても埒が明かない。ここから脱出するためにも、アクゾーンを倒すために乗り込まないと」 「ち、ちょっと待ちなさい! 一人で何もかもわかってるって顔しないでよ!」 自分を置いて話を進めようとするアスカに怒鳴るイザベラ。 「そもそも、ここはどこなのさ! さっきから出てくる怪物どもは一体何なの!?」 「ここがどこかは……あれを見てもらえば、理解しやすいと思う」 と言ってアスカは頭上、空高くを指差す。イザベラとタバサが釣られて上を見ると、表情を驚愕で染めた。 「な、何なの!? あの空は!?」 空にはいつの間にか、月が浮かんでいる。 ……いや、断じて「月」ではなかった。ハルケギニアの月は二つだが、今空に見えるものは一つ。 そして月よりもずっと大きく、空のほとんどを占めている。何より、青や白、緑に茶色とカラフルであった。 ハルケギニアの科学水準ではまだ知られていないものだが、あれは「惑星」と呼ぶ。そしてイザベラたちが 見ているのは、彼女らの故郷「ハルケギニア」なのだ。 「今俺たちがいる場所は、三次元世界じゃない。ここはさっきのでかい奴、ベル星人の作った 疑似空間なんだ。つまり、人工的に作られた世界なんだ」 「人工的に、世界を作る!? そんなことが出来るの!?」 イザベラは信じられなかった。ウチュウ人が全く常識外の能力を豊富に持っていることは 聞き及んでいるが、人工的な世界が存在するなど、夢にも思ったことはない。 しかしこの異常な世界は、そうでもないと説明のつかないようなものであることは確かであった。 「ベル星人とアクゾーンは、この疑似空間で何か悪だくみとしてるに違いない。君たちは見たところ、 それに巻き込まれてしまったみたいだね」 「……あなたは、どうなの?」 タバサは不思議な男、アスカに聞き返す。 アスカという男は何者なのだろうか。ハルケギニアでは作れない光線銃を持ち、こんなにも ウチュウ人たちのことに詳しい。敵ではないようだが、怪しいところだらけだ。 そういえば、そんなところもサイトに似ている。 「言ったろ、俺は風来坊さ」 しかし、アスカはそれ以上何も語らなかった。 「なぁにぃ!? 疑似空間に放っていたトドラがウルトラ戦士にやられた上に、差し向けた 部隊までが全滅しただとぅ!?」 アクゾーンの本拠地で、部下からの報告を受けたボスが声を荒げた。 ボスは部下と異なり、放射状に角を伸ばした異形の仮面を被った風貌だ。仮面は一部が欠け、 下の顔が露出している。そのボスがギリギリと歯ぎしりする。 「よもやベル星人の疑似空間まで嗅ぎつけるとは……おのれぇウルトラマン80め!」 と吐き捨てると、部下に指摘される。 「ん? 80ではない別人だと? ……やかましいッ! そんな些細なことはどうでもよいのだぁ!」 逆ギレするボス。それから感情を落ち着かせると、邪な笑みを口の端に浮かべる。 「だが、我らアクゾーンッ! に二度目の敗北はないぞ。ウルトラマンめ、来るなら来てみるがいい。 今度は返り討ちにしてくれるわ! ワーハッハッハッハッハッ!」 タバサ、イザベラ、そしてアスカの三人は森の中を彷徨った末に、アクゾーンの本拠地と 思わしき建築物を発見した。 それは石垣の基礎の上に木材を組み合わせ、白塗りを施した、ハルケギニアには見られない 建築技法で出来た五層作りの城郭であった。 「随分和風な城だな……」 「ワフー?」 タバサには何のことかよく分からなかった。 「そんなことより、アクゾーンの兵士が厳重に見張ってるな。これは突破するのは困難みたいだ……」 城の周りには、何人ものアクゾーンが一分の隙もなく城の周囲を監視していた。これでは、 アスカたちは身を隠している森から出ていくことも出来ない。 どうしたものか、と思っていると、タバサがアイディアを出す。 「さっき倒した、敵の装備を利用するのは」 「何だって?」 タバサは三人分の兵士の武装を剥ぎ取って運んできていた。こんなことのために持ってきていたのだ。 「これを着て、敵の親玉の元まで目をあざむく」 「なるほど! 敵の兵士の振りをして潜入するって訳だな!」 と言って、アスカはぐっと親指を立ててサムズアップする。 「……そのポーズは?」 「これは了解って意味だ。俺が前にいたところでの敬礼でな」 「これが敬礼……?」 不思議がるタバサ。文化の違いはあるだろうか、握り拳から指を立てたポーズは、あまり敬礼には見えない。 そう思っていると、アスカはこう言う。 「このポーズ、力強さを感じるだろう? 見せられた相手が、安心するような。この敬礼には、 自分は大丈夫です、任せて下さい! っていう意味が込められてるんだよ」 「……」 ともかく、敵陣に侵入するために兵士の格好に手を掛けるアスカとタバサだが、ここでイザベラが文句を言った。 「ちょっと、私にまでそんな危険な真似をさせようって訳!? 冗談じゃない! 私は行かないわよ!」 彼女に対して、アスカは機嫌を害すでもなく告げた。 「それなら、どこか安全な場所に隠れててくれ。その間、俺が行って連中をやっつけてくるから」 寛容な言葉にまたも拍子抜けするイザベラだが、やはり逆恨みめいた不満を胸の内に募らせる。 (何さ、平民が格好つけて! ちょっとは腕が立つみたいだけれど、それでいい気になって英雄気取り? 馬鹿げたものね!) そしてアスカと同じように鎧を身につけようとしているタバサに、八つ当たりのように怒鳴る。 「ちょっと、シャルロット! 仕えるべき主人のわたしを置いてどこに行こうというの!? あんたは北薔薇騎士七号なのよ。他に誰もいないのなら、あんたのやることはわたしの護衛だろう!」 命令するが、しかし、 「断る」 「はッ……!?」 「わたしは、元の世界に帰りたい。じっとしていたら、帰ることは出来ない。だから、脱出のために 行動することを最優先にする」 タバサの言うことはもっともだ。しかしはいそうですかと引き下がるイザベラではない。 「あんた、自分の立場を忘れたんじゃないだろうね!? わたしに逆らったらどうなるか、 教えてあげてもいいんだよ!」 「帰れなければ、立場の上下もない」 正論に、うっ、と言葉を詰まらせるイザベラ。アスカはタバサの味方になる。 「君たちがどういう関係かはよく知らないけど、ここはタバサの自由にさせてあげなよ。 君だって、このまま帰れないのは困るだろう」 「平民が口を挟んでるんじゃないよ!」 「時間が惜しい。もう行く」 「あッ、こらぁッ!」 タバサはそれ以上つき合わず、変装を済ませてさっさと出発する。アスカもそれに続いて、 イザベラから離れていった。 「……」 一人残されるイザベラ。途端に心細い気持ちがどっと沸いてくる。 「……あーもうッ! 置いてかないでよッ!」 急いで残った鎧で身を包み、二人の後を追いかけていった。 「侵入者の件について、重大な報告があります。首領の元まで通してください」 兵士の振りをしてまんまと城の内部に侵入したアスカたち三人。先頭のアスカがそう言って 敵を騙しながら、天守閣へと板張りの城内を進んでいく。 「! あれは、ガリアの人たち……」 道中で三人は、首都リュティスから蒸発した人々の姿を発見した。誰も彼もが、アクゾーンに 物を運んだり武器を作らされたりなどの強制労働をさせられている。 「う、うぅ……」 「や、やめて! もう打たないで……!」 彼らは休ませてもらうこともなく、こき使われているようだった。少しでも能率が下がると、 鞭で打たれる。まるで奴隷のような虐待だ。 「ひでぇことしやがる……。アクゾーンめ、これ以上は好きにはさせないぞ……!」 仮面の下で、アスカは静かに義憤にたぎっていた。タバサもまた、表には出さない怒りを覚える。 だがイザベラだけは、気まずそうに顔をしかめていた。普段のタバサや使用人らの扱いが アクゾーンと大差ないのである。むしろ、こう思っていた。 (貴賎に関係なく働かされてる……。少し間違ったら、わたしもああなってるところだったのか。 わたしはああならなくてよかった) 自分のことしか心配しないイザベラ。そんなことは知らず、アスカたちは天守閣の襖の前に到着した。 「首領、大事な報告があります」 「ほう。入れ!」 襖の向こうから返事が来て、アスカたちは首領の間の中へと入り込む。 だがその途端に、控えていた兵士たちが撃った光線がアスカの膝に命中した! 「ぐわッ!?」 「なッ……!?」 たまらず膝を突くアスカ。突然のことに唖然とするタバサとイザベラ。よく見れば、広い首領の間の 中には大勢の兵士がいて、彼女たちに銃を向けていた。 「うわはははは――――――! バァカめぇ! 我らを騙したと思っていたようだが、騙されていたのは 貴様らの方だぁッ!」 一番奥にいる、一人だけ格好の違う男がアスカたちを嘲った。 「私はアクゾーンッ! 首領のメビーズ二世! 私は先代と同じ策に引っ掛かったりはしない。 残念だったなぁ侵入者ども!」 「くッ……! バレてたのか……!」 ぎりっ、と悔しがるアスカ。タバサは隠し持っていた杖を取り出すも、この状況では呪文を 唱えている暇もない。 「武器を捨てろ! 蜂の巣になりたいか?」 仕方なく、アスカとタバサは銃と杖を床に放り投げた。イザベラも真っ青になりながら、 自分の杖を捨てる。 「それでいい。次は兜を取って、顔を見せろ!」 言われるままに三人が素顔を晒すと、メビーズ二世という首領はタバサとイザベラに目をつける。 「お前たち二人は、我らアクゾーンッ! が三次元世界から引っこ抜いた人間どもの国の王女と騎士だな。 先ほど引っこ抜いた二人だ。影武者などという真似をしていたようだが、このアクゾーンッ! 首領の目を ごまかすことは出来んのだ」 クックッ、と嗤う首領。イザベラは自分の思惑が無意味だったことに、ますます青ざめる。 「お前たちの国の人間はよく役に立っているぞ。お陰で、我らアクゾーンッ! の侵略計画の用意は整ったのだ!」 「アクゾーン……人間たちをさらって、何をしようとしてる!」 アスカがにらみつけると、首領は見下しながら答える。 「黄泉の国への土産話に教えてやろう。我らアクゾーンッ! は、この怪獣ゲラを始めとした 怪獣軍団を大量に三次元世界に送り込み、人間どもを皆殺しにさせる! それから悠々と、 労することなく地上の土地をいただくという訳だ」 首領は傍らにある、天井いっぱいの大掛かりな機械をさすった。その機械のカプセルの中には、 爬虫類か恐竜のような怪獣が収められている。 「……そんな小さい怪獣で、何が出来るの?」 聞き返すタバサ。そう、首領が紹介した怪獣ゲラというのは、人間の手の平に乗るほどの 小型怪獣であった。こんなものを送ったところで、さすがにハルケギニア人は負けたりしないだろう。 だが、首領の計画はもっと恐ろしいものだった。 「今の状態では小さいが、この装置はメタモルシステムというもの。どんなに小さい生物も、 これを使えばたちまち大怪獣に早変わりするのだ!」 「!」 「見ろ!」 首領が指し示した先にあるのは、大きく開いた窓の向こうに見える、巨大なパラボラアンテナ型の装置。 「あの転送装置から三次元世界へ、ゲラを始めとしたメタモルシステムによる大怪獣たちを次々と送り出す。 我らアクゾーンッ! はこのベル星人の作った疑似空間内にいるので、外の奴らは怪獣の転送を止めることも 出来ない。我らアクゾーンッ! は絶対安全という訳だ。どうだ、完璧な作戦だろう! ウワッハッハッハッハッハッ!」 勝ち誇って高笑いする首領。 「くそ、このまんまじゃまずいぜ……!」 アスカは毒づく。そんな作戦が実行されれば、ハルケギニア中に恐ろしい数の犠牲が出てしまう。 止められるのはここにいる自分たちだけだが、今は敵の渦中にまんまと嵌まってしまった。 状況はかなり非常に悪い。 「さぁ、話はおしまいだ。そろそろ死んでもらおうか!」 首領の指示で、兵士たちが銃口を三人に向け直す。アスカとタバサは、どうにか反撃の糸口を 掴もうと険しい顔つきになる。 それを見て取った首領は、何かを考えついたようだった。 「その目、まだ諦めていないようだな。不愉快な目だ! もっと死の絶望を味わってもらわねば、 面白くない。そうだ……」 首領は何を思ったか、イザベラに目をつける。 「そこの王女。お前がその二人を殴り、床にみじめったらしく這いつくばらせろ! そうすれば、 お前の命だけは助けてやろう」 「な、何ですって……!?」 それまで血の気が失せて口をパクパクさせていたイザベラが、ギョッと驚く。 「何を馬鹿なことを……!」 アスカとタバサは、とんでもないことを言い出した首領をきつくにらみつける。が、 「……悪く思わないでよッ!」 何とイザベラは、二人の後頭部を打ち据えて殴り倒した! 「うッ!?」 「ぐわッ!」 「グワーッハッハッハッハッハッ! 本当にやったわ! どうだ、仲間に裏切られて少しは絶望したかぁ!」 思惑通りに這いつくばったアスカたちを、首領は散々に侮蔑する。イザベラはアスカとタバサを 見捨て、首領の元へと寝返った。 (し、仕方ないのよ! あのままじゃ、どの道みんな死ぬだけなんだから! だったら、 自分が助かることをしても何も悪いことないじゃない!) と自分に言い訳をして、首領にすがりつく。 「ねぇ、言う通りにしたわ! これでわたしは助けてくれるんでしょ!?」 「ん~? ふふ、それはだな……」 すると首領は……。 「そんな訳があるか馬鹿がぁッ!」 「きゃあッ!!」 イザベラの頬を引っぱたいて、アスカたちのように床に引き倒した! 背中を踏みつけて、 起き上がれないようにする。 「ワーハハハハハハハッ! お前ほどの底抜けの馬鹿は見たことないわ! こんな甘言にあっさりと 踊らされるとは! 王女だ何だと言いながら、一皮剥けば醜い性根のただのガキに過ぎんッ!」 「ち、ちくしょう……!」 首領は始めからイザベラを騙すつもりだったのだ。それなのに、我が身かわいさのあまり焦って あっさり引っ掛かってしまい、こんな醜態を晒した。イザベラは自分の迂闊さを呪うが、それでも どうにか助かろうと首領に向けて喚く。 「わ、わたしはガリア王国のただ一人の王女なのよ!? それを手に掛けるなんてことをしたら、 どうなるか分かってるの!?」 だがそんな悪あがきは、首領にはもちろん通じなかった。 「とことん馬鹿な娘よ! この疑似空間で、そんな肩書きが意味をなすと思うか!? この世界では、 貴様はただのちっぽけな人間にしか過ぎないのだッ!」 最後に残された、彼女の自尊心がすがれる唯一の身分も、その価値を簡単に否定された。 もうイザベラには、何も残されたものがない。 (うぅ……悔しい……悔しい……!) 絶対君主の威光にあやかる特権階級の身分から一転、着飾っていたものを全て剥がされ、 みじめな姿にされたイザベラは、ただ悔し泣きをすることしか出来なかった。 前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/9149.html
前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔 ウルトラマンゼロの使い魔 第四十八話「潜入者Xを倒せ(後編)」 暗黒星人シャプレー星人 浄化宇宙人キュリア星人 古代暴獣ゴルメデ 友好巨鳥リドリアス 地中怪獣モグルドン 電撃怪獣ボルギルス 核怪獣アルビノ・ギラドラス 登場 「シャプレー星人!」 使用人に化けて公爵家に忍び込み、キュリア星人ことヤマノに濡れ衣を着せようとした星人の名を、 デルフリンガーを抜いた才人が叫び返した。公爵たちメイジも杖を抜き、平民らも身を強張らせて警戒する。 『フッフッフッ……潜入した先に、宇宙人連合に関わりのない異星人がいたから、利用して 混乱を生んだ隙に目的を遂行しようと思ったのだが……ばれてしまったのなら仕方ないな』 シャプレー星人は案の定、宇宙人連合の一員のようだ。ヤプールが送り込んだ刺客か、 ブラック星人のように独自で動いているのかは知らないが、何の関係もないヤマノを、 自分の目的への利用のためだけに貶めようとするとは、何と卑劣な奴。才人は義憤をたぎらせる。 『こうなれば、無理矢理にでも目的を果たさせてもらおう。出てこぉいッ!』 シャプレー星人がひと声叫ぶと、途端にこの場を大きな地揺れが襲った。この揺れ方は、怪獣出現特有のものだ。 「うわッ!」 才人らが思わずよろけていると、やはり近くの森の中から、土を吹き飛ばして巨大怪獣が出現する。 「グウワアアアアアア!」 典型的な恐竜型怪獣で、体色は茶色。頭頂部をリーゼントのような一角が覆っているのが特徴的。 才人は素早く怪獣のデータを端末から引き出す。 「古代暴獣、ゴルメデ……! 凶暴な性質の怪獣だ!」 『地底で眠っていたのを発見し、連れてきたのだ! さぁ暴れろ怪獣! 何もかもを、滅茶苦茶に 踏み潰してしまえ!』 「グウワアアアアアア!」 シャプレー星人の命令に応じるかのように、ゴルメデが地響きを鳴らしながらこちらに接近してくる。 シャプレー星人に直接操られてはいないようだが、元々暴力的な性格の怪獣なので、こんなに近くにいては危険だ。 「むッ、いかん! 皆の者、速やかに退避するのだ!」 「は、はい!」 公爵の指示で、領民たちが一斉にゴルメデから少しでも離れようと逃げていく。その一方で、 『おっと、その娘は置いていってもらおうか! 持って帰らんといかんのでな!』 ゴルメデが起こした混乱のせいでノーマークになっていたシャプレー星人が、ルイズに応急手当てを施し 連れていこうとしたメイド二人の足を、光線銃で撃った。 「あぁッ!」 メイドたちは崩れ落ち、負傷しているルイズも釣られて転倒する。 「わしの娘と使用人に何をするかッ!」 『むッ!』 怒った公爵の魔法弾によって光線銃が弾かれるが、シャプレー星人は代わりにどこからともなく 剣を取り出し、杖を向ける公爵やエレオノールらに飛び掛かる。 「このッ!」 魔法攻撃を放つ公爵たちだが、シャプレー星人の動きは風のように速く、易々と魔法をくぐり抜けると、 エレオノールに肉薄して柄で殴り飛ばした。 「あうッ!」 「エレオノール! おのれ!」 公爵、夫人を目にも留まらぬ動きで撹乱し、倒れたルイズへと接近していく。ルイズは 逃げることが出来ない! 「あぁッ!?」 『娘、一緒に来てもらうぞ!』 「そうはさせるかぁッ!」 ルイズをさらおうと手を伸ばすシャプレー星人に、才人が横から飛び込んでデルフリンガーを振り下ろした。 だがシャプレー星人はすかさず反応し、跳びすさって剣をよけた。 『お前もいたな。では、お前から先に片づけることにしようかッ!』 「そう簡単にやられるかよッ!」 シャプレー星人が剣で応戦してきたので、才人はデルフリンガーを振り回して、ぶつかっていくように 剣戟を繰り広げる。 ガンダールヴの力を引き出し、人間離れした速度と太刀筋を振るう才人。しかし相手は人外。 巨大化する能力は持たないとはいえ、身体能力も剣の腕もガンダールヴの才人と同等であった。 そのため剣の勝負は互角で、ルイズから引き離すので精一杯だった。 「くそ、つえぇ! 太刀筋はワルド並みか、それ以上だ!」 「相棒、ここは娘っ子の家族に援護してもらった方がいいぜ! 時間を掛けすぎると…… いや、もう遅いか……!」 「グウワアアアアアア!」 デルフリンガーの台詞の直後に、ゴルメデの鳴き声がより近い距離から聞こえてきた。 ゴルメデは既に彼らの目と鼻の先。才人たちを有効射程に収めたようで、口から火炎弾を 吐き出そうとしている。公爵たちがおののく。 「まずいッ!」 皆の目がゴルメデに向いているので、ウルトラゼロアイを手に取って変身しようとする才人であったが、 『ふんッ!』 その瞬間にシャプレー星人が口から含み針光線を吐き出し、ゼロアイはそれに弾かれて飛んでいってしまった。 「しまったッ!」 『クハハハッ! そのままゴルメデに焼き尽くされろ!』 ゴルメデは今にも火炎弾を吐き出そうとしている。公爵夫人が杖を振り下ろそうとした、その寸前に、 「ピィ――――――!」 空からリドリアスが駆けつけ、ゴルメデに掴みかかった! 首を上に向けられたゴルメデは、 火炎弾を空の彼方に飛ばした。 「リドリアス!」 『何ッ!? くそ、邪魔が入ったか……!』 才人が驚くと同時に、助かったことに喜び、反対にシャプレー星人は毒づいた。 「ピィ――――――!」 「グウワアアアアアア!」 リドリアスはそのままゴルメデを押し戻すと、手を放してゴルメデの面前に着陸した。 妨害されたゴルメデは怒り猛ってリドリアスに攻撃を振るおうとするも、 「ピュ―――――ウ!」 「グイイイイイイイイ!」 「モグルドン! ボルギルス!」 そこに地中からモグルドンとボルギルスも現れ、三体でゴルメデを取り囲んだ。みんな、 カトレアの危機を察知して助けに来てくれたらしい。 才人はそのままゴルメデを倒してくれるものかと思ったが、事実は違った。リドリアスも、 モグルドンも、ボルギルスも、ゴルメデに向けてしきりに鳴き声を上げる。 「ピィ――――――!」 「ピュ―――――ウ!」 「グイイイイイイイイ!」 「グウ……グウワアアア……!」 するとゴルメデがひるんだように動きを鈍らせた。リドリアスたちは、一体何をやっているのだろうか? 「あれは、まさか……ゴルメデを説得してるのか……?」 リドリアスたちの呼びかけで、ゴルメデが妙に大人しくなったので、才人はそう考えた。 それが正解だというかのように、いつの間にか中庭に姿を現していたカトレアもゴルメデに 向かって歩いていき、声を張って呼びかけた。 「大丈夫よ。わたしたちは、あなたを傷つけたりはしないわ。安心して」 「カ、カトレアお嬢さま!? 危ないですよ!」 泡を食って追いすがるヤマノを手で押し留めて、ゴルメデへの説得を続けるヤマノ。 「あなたは、急に起こされて気が立ってただけなのね。わたしには、分かるわ。感じられるの。 ……でも、いい子だから、お帰り。大丈夫、怖がらないで。わたしたちは何もしないわ。信じて……」 「ピィ――――――!」 「ピュ―――――ウ!」 「グイイイイイイイイ!」 カトレアを応援するように、リドリアスたちもゴルメデに呼びかけ続けた。その結果、 「……グウワアアアアアア」 ゴルメデは腕を下げ、クルリと振り返ってどこかへと立ち去り始めたではないか! 戦意をなくしている。 カトレアは、怪獣の説得に成功したのだ! 「す、すげえ……ルイズのお姉さん……!」 『あ、あぁ……ビックリしたぜ……』 才人のみならず、ゼロも言葉を失っていた。ゼロもルナミラクルになれば、猛る怪獣を 大人しくさせることが出来る。しかしそれは光線の効果によるものだ。カトレアのように、 特別な力を用いず、言葉だけで怪獣を安心させることなど、到底出来ない。 カトレア。まるで、ルナミラクルの力を授けてくれたウルトラマンコスモスのように、 果てなき慈愛にあふれた女性だ。 『宇宙には、こんなすごいことが出来る……いや、こんなすごい人がいるのか……』 今まで色んな種族、色んな力を持った生物を見てきたゼロだが、今この時ほど驚いたことはない。 慈愛の心とは、これほどまでに奥が深いものなのかと、今回ばかりは脱帽する他なかった。 しかし、そんな愛の奇跡を認めない者もいた。 『ええいッ! 何だこれは! とんだ期待外れだ! 所詮は野良怪獣か! 肝心なところで役に立たんッ!』 シャプレー星人だ。ゴルメデが帰っていくのを許さず、怒り狂ってわめいた。 『こうなれば、切り札を出してやる! ギラドラース! ギラドラース!』 「ギギャ――――――アアア!」 その呼び声に呼応して、更に新たな怪獣が、大地を割ってゴルメデの前方から出現した。 四足歩行でありながら体高は高く、ずんぐりとした体型。大きく裂けた口を持つ顔の周りから、 四本の赤い鉱石のような突起が生えている。シャプレー星人の用心棒怪獣ギラドラスだが、 本来黒い体色がこの個体は、雪のように真っ白であった。 「ギギャ――――――アアア!」 「グウワアアアアアア!」 白いギラドラスは口から光球を吐き、何とゴルメデを攻撃し始めた! 不意打ちを食らった ゴルメデが激しく横転する。 「なッ……!?」 「ギギャ――――――アアア!」 絶句する才人たち。それに関わらず、ギラドラスは執拗にゴルメデに光球を撃ち続けて痛めつける。 「ピィ――――――!」 「ピュ―――――ウ!」 「グイイイイイイイイ!」 リドリアスたちが慌てて駆け寄り、倒れたゴルメデをかばってもお構いなし。むしろリドリアスたちも 攻撃し、大地に這いつくばらせた。 「や、やめてッ! こんなひどいことしないで!」 カトレアが叫んで懇願するが、ギラドラスは耳も貸さない。シャプレー星人の生体兵器として 調整された怪獣なので、シャプレー星人の命令しか聞かないのだ。 「おいッ! やめさせろ! 怪獣たちは、俺たちに関係ないだろうが!」 才人がシャプレー星人を糾弾するが、シャプレー星人は冷酷にせせら笑った。 『フハハハハ! 暴れない怪獣など、何の利用価値のない、でかい生ゴミでしかないわ! 処分して何が悪い!』 「何だと……!? この野郎ッ!」 「相棒待てッ! 迂闊に飛び込むな!」 命あるものをゴミ扱いする、一片の良心も持たないシャプレー星人に激怒した才人がしゃにむに 斬りかかろうと飛び掛かるが、シャプレー星人は隠し持っていたもう一丁の光線銃で才人の肩を撃った。 「ぐあッ!」 それにより、デルフリンガーを落としてしまう。万事休すだ。 『馬鹿めッ! 力を持つ者が、力なき者を踏み潰し、淘汰する! それが世界の掟だ! 貴様らみんな、 このシャプレー星人がねじり潰してやるわぁ!』 才人が武器を全て失ったことで、シャプレー星人は早くも勝ったつもりになって豪語した。 そこに、待ったの声を掛ける者が一人。 「力を持つ者が、ですか……。それも真理の一つでしょう。しかし、一つ思い違いをしているのでは ないでしょうか? そこのあなた」 『何ぃ?』 水を差されたように感じ、機嫌を害して振り返るシャプレー星人。今の言葉を発したのは、公爵夫人だ。 「そう、たとえば……力を持つ者が、必ず己だということなどとか。踏み潰される側に回っても、 そのようなことを果たして口に出来るのですか」 『……ふざけたことを。このシャプレー星人を、誰が踏み潰すというのだ? もしかして、 貴様のようなひょろい女ではあるまいな?』 公爵とエレオノールは、何かをひどく怖がるかのように夫人の近くから退散した。しかしシャプレー星人は それに全く構わなかった。どうせ人間と、高をくくっている。 『笑止! 貴様らメイジの戦闘能力は、調べがついている! どいつもこいつも、所詮我々に及ぶものではない! あまりふざけたことを言ってると、その口を切り裂いてやるぞ!』 「わたくしの力が及ぶか及ばぬか……その目で確かめては如何でしょうか」 脅すシャプレー星人を、むしろ挑発する夫人。才人は彼女が正気かと疑った。シャプレー星人の戦闘力が 常人をはるかに超えているのは、ずっと見ていたではないか。 『ほざいたな! 死に瀕してから撤回するんじゃないぞぉッ!』 業を煮やしたシャプレー星人がとうとう、夫人に向かって剣を振り上げ、駆け出していく! 「危ない! 逃げろぉーッ!」 才人の絶叫に反して、夫人は掲げた杖を振り下ろす。立ち向かうつもりだ。 『愚か者めッ! 私の脚力ならば、貴様らメイジの攻撃など、見てからかわすことも余裕だぁッ!』 夫人を嘲笑し、速度を緩めることなく接近していくシャプレー星人。炎か、氷の矢か、 風の刃か、土の槍か、その程度のものが飛び出てくるだろうと考えている。 そして、夫人の魔法が発動した。 『なッ……!?』 飛び出てきたのは……天に届かんばかりの巨大な竜巻だった。予想の全てが外れ、シャプレー星人は 思わず急停止した。 『な、何だこれはぁッ!? こんな攻撃、聞いていないぞぉ!?』 驚愕しているのは、シャプレー星人だけではなかった。才人も、伝説の虚無魔法は別として、 この世界に来て初めてお目に掛かるほどの大規模な攻撃魔法を目の当たりにして、唖然としていた。 アンリエッタとウェールズの水の竜巻すら、これほどのものではなかったはずだ。 「うおぉぉッ!? 吸い込まれる!?」 竜巻は、渦の中心に向かう風を生じる。遠巻きにながめている才人にもその影響が掛かり、 慌てて踏ん張ってデルフリンガーとゼロアイを回収した。 「こいつはスクウェア・スペル、『カッター・トルネード』だな! しかし、とんでもねえ威力だぜ!」 解説するデルフリンガー。才人はルイズのところまで駆け寄り、彼女とメイドたちも吸い込まれないように 押さえながら尋ねかけた。 「ルイズ! お前の母さん、一体何なんだ!?」 常識外の魔法を扱う夫人の正体を、ルイズが話す。 「母さま、カリーヌ・デジレは、先代マンティコア隊隊長“烈風”カリン! トリステイン始まって以来の 風の使い手といわれる、歴戦の戦士だった人よ!」 竜巻は遠くの才人にも影響を及ぼすほどの吸引力。そのため、攻撃対象のシャプレー星人は当然、 その影響をもろに受けていた。剣を地面に突き刺して抵抗するが、その剣ごと吸い込まれそうになっている。 『うおおおあああああああああッ!?』 「さぁ、かわして御覧なさい」 淡々と告げる夫人。その言葉に反して、シャプレー星人は地面から足が離れて、竜巻の中心へと 引き込まれていった。 『うぎゃあぁぁぁぁ――――――――!!』 竜巻は、『カッター』の名に恥じぬ切れ味を見せ、真空がシャプレー星人の肉体をズタズタに切り裂いていった。 シャプレー星人は暴風にもてあそばれながら、断末魔を上げる。 『こんなことがぁ―――――!! ギラドラァース!!』 それを最期に、跡形もなく爆散。同時に竜巻もやんだ。 「ふん。世界を少し見ただけで、全てを知った気になっている、どこにでもいるような愚か者でしたわね」 シャプレー星人を圧倒した夫人は、つまらないことのように言い捨てた。才人は、あまりの急展開に ただただ呆然としている。 「ギギャ――――――アアア!」 だがいつまでも呆けてはいられなかった。シャプレー星人の断末魔によって、ギラドラスが ずっと痛めつけていたリドリアスたちからこちらへと矛先を移し、接近し始めたのだ。 「はッ! あいつを倒さねえと!」 『サイト、変身だぜ!』 誰の視線もこちらに向いていない内に森の中に飛び込んで身を隠し、ゼロアイを装着。 ようやくウルトラマンゼロへの変身を果たし、ギラドラスの前に立ちはだかった。 「デュワッ!」 「ギギャ――――――アアア!」 不意打ちの鉄拳が決まり、ギラドラスは押し戻される。このまま追撃を掛けようとするゼロだが、 それより早くギラドラスが首を大きく揺り動かした。 「ギギャ――――――アアア!」 すると急速に空を厚い黒雲が覆い尽くし、猛吹雪が吹き荒れ出した! ゼロは突風に吹かれて、 バランスを崩した。 『うおッ! 急に天気が……そうか、ギラドラスの能力か!』 父、セブンから聞いたギラドラスの能力を思い出すゼロ。ギラドラスは元々環境制御用の怪獣であり、 天候を自在に操作することこそがその力の本領なのだ。特にウルトラ戦士は低温が弱点なので、吹雪はその身に応える。 『けど、こんぐらいの寒さでへこたれるかってんだ! うおおおおッ!』 ゼロは根性で吹雪を突っ切り、ギラドラスへ肉薄しようとする。が、ギラドラスの攻撃の矛先は ゼロに向いていなかった。 「ギギャ――――――アアア!」 散々打ちのめされて、動けないでいるリドリアスたちに光球を吐こうとしている! 『何ッ!? くそッ!』 ゼロは慌ててリドリアスたちの前に回り、ウルトラゼロディフェンサーを張って盾となった。 しかしギラドラスは絶え間なく光球を吐き続け、その場から動けなくなってしまう。 『ちッ! このまま俺の時間切れまで粘ろうって訳か……!』 毒づくゼロだが、もう罠に嵌まってしまった。このままでは何も出来ずに才人に戻ってしまうが、 命がけで戦ったリドリアスたちを見捨てる訳にはいかない。二律背反に陥り、どうしたらいいかと焦った、その時、 「彼には、我が祖国が何度もお世話になっています。手助けをするのは、貴族として当然のことですわね」 夫人が杖を振るい、再び竜巻を作り出した。ギラドラスの眼前に。 「ギギャ――――――アアア!?」 ギラドラスは突如発生した竜巻に激突して、大きく体勢を崩した! 『マジでッ!?』 仰天するゼロ。夫人の魔法の威力がとにかく桁違いなのは今さっき目にしたが、まさかギラドラスレベルの 巨大怪獣を弾き返すほどだとは。怪獣とは普通、ミサイルが直撃しても平然としているほどの耐久と重量なのに。 本当にあの人、人間なのかよ、なんて思ったりもしたゼロだが、彼女が作ってくれた好機を みすみす逃す手はない。光球が飛んでこない内に、ゼロスラッガーを投擲する。 「ジュワッ!」 ギラドラスの左右から迫ったふた振りのスラッガーが、交差してその首を両断した。ギラドラスの首は たちまち胴体から離れて落下、切り口からは血液の代わりに、緑色が掛かった鉱石が大量にボロボロと 流れ出て、胴体が崩れ落ちた。 ハルケギニアで採掘される風石だ、とゼロは気がついた。高エネルギーを秘めていて、 ジャンボットがエメラル鉱石の代わりにエネルギー源としていた。ギラドラスの本来の任務は、 その風石の盗掘だったのだろう。 「デュワッ」 ともかく、これでシャプレー星人のたくらみは全て粉砕した。ゼロはウルトラ念力で、 集められた黒雲を戻して空を晴れ渡らせると、そのまま飛び立って去っていった。 「うーん……まずいなぁ……」 ゼロから元に戻った才人は、森の木々の陰に隠れながら、中庭の様子を困り果てながら窺っていた。 シャプレー星人を撃退したのはいいのだが、その騒ぎのせいで公爵たちが集まってしまった。 そしてその中にルイズ。もう彼女を連れて逃げ出せる状況ではなくなってしまった。 「シャプレー星人め、余計なことを……」 「相棒、一旦諦めようぜ。こうなった以上、ほとぼりが冷めてから、娘っ子を奪取する計画をだな……」 嘆息する才人に、デルフリンガーが提案する。と、その時、才人の頭に影が覆い被さる。 「え?」 「ピィ――――――!」 ふと顔を上げたら、いつの間にか復活したリドリアスの首が頭上を覆っていた。 「えぇぇー!?」 「ピィ――――――!」 リドリアスは才人に有無を言わせず、パーカーの襟をクチバシではっしとつまんだ。そして器用に 自分の首の上に放り上げて乗せると、中庭にも首を突っ込む。 「うわぁぁぁ!?」 「リドリアス!?」 皆が驚いている間に、ルイズも素早く首の上に乗せる。ルイズをキャッチする才人。 「ル、ルイズ!?」 「サイト! これどうなってるの!?」 「リドリアスに聞いてくれ!」 「ピィ――――――!」 公爵たちが呆気にとられている内に、リドリアスがピョンピョン飛び跳ねながら移動。 街道で待っていたシエスタを、馬車ごと自身の上に乗せた。 「きゃあ! きゃあきゃあ! サイトさん、これ何でしょうか!? わたしたち、どうなっちゃうんですか!?」 「だから、リドリアスに聞いてくれよ!」 「ピィ――――――!」 三人を乗せたリドリアスは直ちに翼を広げて、天高くに飛び上がった。そして飛んでいく先は、魔法学院の方角。 「こいつ、まさか……俺たちを逃がしてくれるのか?」 才人の問いには答えず、リドリアスはひたすら空を走っていく。一方で地上は、大騒ぎ。 「あああぁぁぁ! ルイズが行ってしまう!」 「やられてしまいましたね……」 出し抜かれた公爵は頭を抱えて叫び、夫人も頭が痛そうに手で支えた。エレオノールはカトレアを問い詰める。 「カトレア、あなた! リドリアスに命令したんでしょう! そうでしょう!?」 「あらあら、姉さまったら嫌ですわ。リドリアスはあの子たちに大層懐いてた、それだけのことです」 カトレアはうふふと微笑んでさらりとかわした。ヤマノは、どちらの味方をしたらいいのかとうろたえている。 「誰か! あれを追いかけろ! ジェローム、すぐ手配を!」 「無理です、旦那さま。とても追いつけません」 わめく公爵に、さっさと諦めた執事が答える。それを尻目に、リドリアスはもう小さくなっていた。 「ピュ―――――ウ!」 「グイイイイイイイイ!」 モグルドンとボルギルスが、友の逃走劇の手助けを、はしゃぎながら応援していた。 こうして見事(?)に公爵領から脱出、逃走を成功させたルイズたち。学院に帰った頃には、 才人とルイズの仲は、才人が想いを打ち明けたことで深まり、両想いに……。 ……なんてことには、シエスタが余計な茶々を入れたことでルイズが嫉妬を爆発させ、 その結果うやむやになるという、まぁ要するにいつもの展開によってならなかった。 しかしそれは、別の話なのであった。 「ふふ。リドリアス、よくやってくれたわね。いい子よ」 「ピィ――――――」 全てが終結し、公爵が憮然としながらもルイズの件を諦め、屋敷にひとまずの落ち着きが戻った頃、 ルイズたちを送り届けて帰ってきたリドリアスをカトレアが褒めていた。彼女が首を撫でると、 リドリアスは気持ちよさそうに喉をゴロゴロ鳴らした。 「……それで、ヤマノ先生、お話しがあるなら出てきて下さい」 「気がついてましたか、お嬢さま……」 背後に振り返ったカトレアが呼びかけると、樹の陰からヤマノがそっと姿を出した。その顔は困惑で 強張っているが、カトレアは反対ににこにこしている。 「ふふッ。お話しの内容はきっと、先生の素性をわたしが気づいてたことについてですね。父さまから聞き及んでます」 「……そのことですが」 ヤマノは恐る恐ると、カトレアに尋ねかける。 「お嬢さまは、私が人間ではない、別の世界の人間だと分かって……私のことが恐ろしくないのですか? この世界は、私のような異星人……別の世界の者たちの攻撃を受け続けているではないですか。 それと同じ私を、どうして……」 侵略者の脅威と残酷さは、シャプレー星人が十分すぎるくらい見せつけた。それなのに、 カトレアにはヤマノを恐れ、避ける気配がない。その家族たちもだ。 そのことについて、カトレアはこう語った。 「わたしや父さま、母さまは、人を人種ではなく個人で見るようにしてますわ。エレオノール姉さまは、 ちょっと偏見が強いけれど……父さまたちの決定に逆らうことはしませんもの。だから、わたしの病を 必死に治してくれようとしてる先生を追い出すような真似は、致しませんわ」 「し、しかし……」 カトレアたちの心優しさに、逆に戸惑うヤマノ。そんな彼に、カトレアは天使のような柔らかな笑みを向けた。 「先生、同じ別の世界の人が悪いことをしたからと、先生が気に病まれないで下さい。先生は、 わたしたちの大事な人……それでいいではないですか」 カトレアに全幅の信頼を寄せられ、受け入れられたヤマノは、すっかりと呆けていた。 そして無意識の内に、頭を垂れていた。 「……ありがとうございます」 お礼を告げたヤマノの前で、カトレアは朗らかな笑顔を浮かべ続けていた。 前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/9014.html
前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔 ウルトラマンゼロの使い魔 第四話「盗まれたウルトラゼロアイ」 宇宙ハンター クール星人 宇宙怪獣エレキング カプセル怪獣ウインダム 双頭怪獣パンドン 変身怪人ピット星人 登場 虚無の曜日。それは地球文明の日曜日に当たる週の休日であり、トリステイン王国のブルドンネ街は 休みを利用して買い物に出たり、その買い物客を自分の店に招こうと声を張り上げたりしている人たちで 賑わいを見せていた。 だがその平和の光景は、たった一瞬で破られた。突如空から、見えない何者かの攻撃が街を焼き、 同時にハルケギニアにおいて初めて街中に出現した怪獣エレキングが猛威を振るい出したのだ。 あまりに突然なことの上、怪獣災害を経験したことが一度もないトリスタニアの民はどうすればいいのか分からず、 ただただ逃げ惑うばかり。 しかし危機が訪れているのは城下町だけではなかった。その中央の、トリステインの王宮でも今、 施政者たちに、彼らが全く経験したことのない事態が牙を剥いていた。 このところの王宮では、連日のように臨時会議が開かれていた。議題は、トリステイン魔法学院に初めて出現して以降、 各地に出没するようになった、本来この世界には存在しない超巨大生物「怪獣」への対策。ウルトラマンゼロが 出現するそれらを片っ端から退治しているのだが、現れてすぐという訳にはいっていないので、既に国の財政に 打撃を与えるほどの被害を出している。他国でもトリステインと同様に緊急対策会議が開かれているというが、 トリステインの場合は、ただでさえ国力が低下傾向にある国。古いばかりで中身のない伝統にこだわり過ぎる頑なな 保守派が政治の中核を成しているので、どれだけ議論し合っても結局は何も決まらずに時が過ぎるばかり。 虚無の曜日の今日でさえ、徒労に終わりそうな会議が進行していたのだが、その途中でいきなり、 どこから発信されたのか不明な虚像が議場に乱入してきたのだ。しかもその虚像の姿が、トリステインの誰も 見たことがない未知の姿であったために、会議に集まった王侯貴族と軍の将校たちの間に軽い衝撃が走った。 『ハルケギニア人の諸君に告ぐ。即座に武装解除して、我々クール星人と宇宙人連合に全面降伏せよ』 「な、何だ、この生き物は……!?」 ハルケギニア世界には人間と敵対するエルフを始めとして、様々な亜人種が存在する。 だが今彼らの前の生物は、そのどれとも違っていた。それどころか、しゃべっているところを 見ていなかったら知的生物であることも信じられないような、虫に似た姿なのだ。 この宇宙人は、地球を狙う様々な侵略者と戦ったウルトラセブンが最初に関わった事件の首謀者である 残酷無比な宇宙人、クール星人である。 「クールセイ人とやら。あなたの言うウチュウジン連合というものが、今の街の惨状を引き起こしているのですか?」 貴族たちが驚きのあまりに言葉を失っている中で、トリステインの代表として努めて毅然な態度を取って クール星人に臨む者が出た。トリステイン国王崩御後、太后マリアンヌに代わって王国の象徴となった アンリエッタ王女である。 そのアンリエッタの問いかけに、クール星人は淡々と肯定を返す。 『如何にもその通りである。攻撃しているのはこの土地だけではない。今この瞬間に、 ロマリア、ガリア、ゲルマニアの諸国――我々からすれば、どれも「国」と呼ぶのもおこがましいような ちんけな集落だがな――の首都も別働隊が攻撃しているのだ』 「!? 何と恐ろしいことを……。どうやら目的はハルケギニア中の国家の征服のようですが、 これほどの事態を引き起こすあなた方は一体何者なのですか? ロバ・アル・カリイレから来たのですか?」 『教えたところで、お前たちの下等な文明では理解することすら出来まい』 クール星人への驚きのあまりに呆然としていた貴族たちだったが、相手の傲然とした言動にだんだんと腹を立てていた。 貴族の方も高慢な性格の人間が多い。そのため、相手が未知の存在だろうと、見下されるのは許容しがたいのだった。 「貴様! 黙って聞いていれば、偉大なる始祖ブリミルがもたらされた魔法を扱う、高貴なる血統の 我々に対して何たる口の利き方! どこから幻影を届けているかは知らぬが、あまり図に乗っておると、 我らの魔法で滅してくれようぞ!」 とうとう貴族の一人がこらえ切れずに噛みついたのだが、クール星人は恐れるどころかあからさまに馬鹿にしてきた。 『お前たちハルケギニア人なんて、我々から見れば昆虫のようなもんだ!』 「なぁッ!?」 これほどの侮辱を受けたことは、この場にいる誰もがなかった。そのため一斉に怒りを覚えて、 一部の者は腰を浮かしかける。 だがそれを制するように、クール星人が言葉を続けた。 『これを見るがよい!』 虚像が見せる映像がクール星人の姿から、全く見慣れない空間でなす術なく漂わされている人々の様子に切り替わった。 『た、助けてくれー!』 『誰かぁー!』 「この人たちはまさか……トリステインの民!?」 『如何にもその通り! 我らクール星人が夜な夜な拉致して、人質としたのだ!』 アンリエッタの叫びを肯定するクール星人。人質は老若男女、様々な人間で構成されており、 マントを羽織った貴族までがまぎれていた。これには議場の全貴族がひるむ。 『まずは一番の小国の首長から回答を求めよう。どうだね? 彼らの運命は、君たちの返事で決まる。 さぁ、すぐに答えるんだ。全面降伏に応じるか?』 クール星人は大勢の人質の命を盾にして、アンリエッタに返答を強要する。 皆が固唾を呑んで見守る中、アンリエッタは答えた。 「お断りします! 仮にも一国を預かる身として、このトリステインを売り渡すことは出来ません!」 それを聞いたクール星人の虚像が薄れていく。 『愚か者め! お前が選んだのは滅亡の道だ! すぐに思い知る……!』 との言葉を残して、完全に消え去った。 「た、大変なことになった……!」 「このような事態は、全く前例がありませんぞ……!」 クール星人の虚像が消え去ると、議場の貴族たちは突きつけられた事態に大いにざわつき出した。 その中で、将校が血気に盛って主張する。 「あんな化け物を横行させてなるものか! すぐに軍を動かして一匹残らず駆逐するべきですぞ、姫殿下!」 そこに貴族の一人が待ったを掛ける。 「しかし奴らには、我らと同じトリステイン貴族が囚われていますぞ。それを見殺しにするというのは、いささか……」 彼が気に掛けているのは人質の命ではなく、貴族の命だけであった。その思考にアンリエッタは嫌悪感を覚えるが、 表には出さなかった。 「殿下、如何なさいましょうか? 重い決断をお委ねしますが……」 彼女の側に控える、実質的なトリステインの宰相であるマザリーニ枢機卿が問いかけると、 アンリエッタは辛そうに悩んだ末に、答えを出す。 「……非常に心苦しいことですが、何よりも護らなければならないのは、このトリステインという国。 人質を救出する手立てがない以上、しなければならないことは、侵略者の撃退です」 その言葉を聞いたトリステイン軍大将のド・ポワチエは席から腰を浮かした。 「では、すぐに魔法衛士隊を出動させましょう! トリスタニアはこうしている間にも化け物どもの攻撃を受けております! 何、衛士隊の全兵力を以てすれば、たとえ敵が何者であろうと関係なし……」 「待たれよ!」 今にも飛び出していきそうな勢いのポワチエを、マザリーニが呼び止めた。ポワチエは小さく舌打ちして向き直る。 「何ですかな、枢機卿!? 事態は一刻を争うのですぞ!?」 「それは重々承知済みだとも。しかしながら、巨大生物はともかく、空から攻撃を加えているものは 姿が視認できないとの報告が入っておる。見えざる敵と、どうやって戦うおつもりか?」 「そ、それは……」 マザリーニの質問に、ポワチエは言葉に詰まった。何も考えがなかったようだ。 しかし問いかけたマザリーニの頭の方に、対策が用意されていた。 「軍には、どれだけの量の塗料がおありかな? 少ないようでならば、王宮か、街からかき集めるとよろしいだろう」 「は? 塗料?」 急に出てきた言葉に、議場の一同は呆気にとられた。そのためマザリーニはどういうことか説明をする。 「敵の正体は不明だが、実体がないということはないであろう。見えぬのならば、こちらから色を塗ってやればいいこと。 目印があれば、互角に戦えるであろう」 マザリーニの作戦に貴族たちは大いに感心する。 「なるほど! この短時間で的確な対応策を考えつかれるとは、さすが枢機卿!」 「ではすぐに手配させましょう! 大至急!」 直ちに見えない敵への用意が整えられ、大量の塗料が入った樽を乗せたグリフォン、ヒポグリフ、 飛竜などの空飛ぶ幻獣を扱う魔法騎士たちが飛び立っていく。 「よし、作戦開始!」 上空まで上がると、樽から塗料を放って、それを風のメイジが旋風を起こすことでトリスタニアの空一面へ広げていく。 果たして作戦は成功し、赤い塗料が付着して侵略宇宙人たちの二本の突起が突き出た形の円盤が浮かび上がってきた。 「姿が見えたぞ! 攻撃開始だ!」 それを合図として、騎士たちは一斉に円盤や地上のエレキングへ攻撃を仕掛けていく。 炎、氷、風、鉄の刃が敵に降り注がれる。 だが上手く行っていたのはそこまでであった。怪獣であるエレキングはもちろんのこと、 果てしない宇宙を旅して大気圏突入の摩擦熱に耐える機体の円盤には、ほとんど損傷を与えられなかった。 精神力を振り絞っても、良くて煙を上げさせる程度に留まる。 「そ、そんな馬鹿な!? 一体何で出来ているのだ、こいつらは!?」 それとは対照的に、円盤は光線一発で騎士を撃ち落としていく。 「ぐわああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」 「キイイイイイイイイ!」 エレキングも口から放電光線を放って、騎士たちを感電させて撃墜する。 「ぎゃああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」 「こんなことが……我々の力では、この化け物どもに敵わないというのか……!? 神よ……!」 なす術なく落とされていく仲間たちの姿を見せつけられる騎士の一人が、無力感を覚えて神に祈った。 「きゃああああぁぁぁぁぁぁぁぁ! 助けてぇぇぇぇぇぇぇ!」 「私の家があああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」 「うえーん!! ママー!!」 円盤からの攻撃とエレキングの蹂躙で、家屋は次々と潰されていき、街が破壊されていく。 地獄絵図とはこのことだった。 その中で、怪しい女にウルトラゼロアイを奪われた才人たちは大いに慌てふためいていた。 「ま、まずいッ! あれがないとウルトラマンゼロになれないんだ! よりによって、今スリに遭うなんて!」 「どーするのよぉ! ゼロがいなくちゃ、あの怪獣たちを倒せないじゃない!」 パニック状態の才人とルイズを置いて、ゼロとデルフリンガーは交互に発する。 『今の女、ただ者じゃねぇな。俺が全く気配に気づかなかった。それに最初からウルトラゼロアイを狙ってた。 動きに迷いがなかったからな』 「ただ者じゃねーってのは同感だ。今の奴、丸で感じたことのない気配だったぜ。本当に人間なのか?」 「何悠長に語り合ってるのよぉ! このままじゃトリステインは全滅なのよ!?」 ルイズが怒鳴ると、ゼロがなだめるように声を出す。 『落ち着け! 当然取り返しに行くぜ。才人、俺が指示するからお前はその通り走ってけ!』 「お、おう!」 「その間、敵はどうするのよ!?」 と聞いたら、ゼロは何故か不敵に笑った。 『何、実はこういう変身できないような不慮の事態に陥った時のためにと、親父が貸してくれたものがあるんだ。 才人! この箱からカプセルを出すんだ!』 ウルティメイトブレスレットから銀色の小箱が出てきて、才人が蓋を開くと、中に三つのカプセルが収まっていた。 その内の黄色いカプセルを取り出す。 『それをエレキングの方向へ向かって、大きく投げ飛ばせ!』 「分かった! とりゃあぁぁー!」 指示通りにカプセルを全力で投げ飛ばす! するとカプセルの飛んでいった先の、瓦礫の山と化した区画に渦巻く光の線が浮かび上がると、 その中央に額の赤いランプが目立つ、銀色のロボットのような怪獣が出現した! 「グワアアアアアアア!」 「きゃあッ!? ま、また怪獣が現れたわよ!?」 ルイズは半狂乱になるが、才人はその怪獣に見覚えがあった。最後の怪獣頻出期の防衛チーム、 GUYSジャパンが「マケット怪獣」としてあの怪獣を使役していたという。 「あれはまさか……ウインダム?」 『その通りだ! 親父から借りた俺たちの味方、カプセル怪獣だ!』 ゼロが意気揚々とウインダムの紹介をした。 「何!? 新たな怪物が……もうトリステインはおしまいなのか!?」 生き残っている魔法衛士隊の騎士がウインダムの出現を目の当たりにして、思わず叫んだ。 その彼に、光線を発射しようと構えている円盤が接近してくる。 「はッ!? しまった!!」 ウインダムに気を取られたことで、回避する暇がない。やられる――そう思った時、 「グワアアアアアアア!」 ウインダムは額のランプからレーザーを発射して、騎士を狙っていた円盤を一撃で粉砕した。 「なッ!? あの奇怪な飛行物体を攻撃した……。敵じゃないのか?」 騎士の疑問を肯定するかのように、エレキングがウインダムの方へ向かっていって攻撃を加える。 「キイイイイイイイイ!」 「グワアアアアアアア!」 二大怪獣が正面から激突し、取っ組み合って殴り合う。その肉弾戦は、皮膚がまさしく鋼鉄であるウインダムに分があった。 「キイイイイイイイイ!」 殴り合いに負けたエレキングがつんのめる。するとウインダムはエレキングの尻尾を捕らえて、 怪力を発揮して振り回し始める! 「グワアアアアアアア!」 「キイイイイイイイイ!」 ジャイアントスイングされるエレキング。ブンブン振り回された末に、一軒の商店の上へ落とされそうになる……。 「わあああぁぁぁぁぁぁ! わしの店ぇぇぇぇぇ!」 商店のオーナーが悲鳴を上げるが、押し潰される寸前にエレキングはピタッと止められ、 反対側の瓦礫の山に叩きつけられた。 「キイイイイイイイイ!」 「グワアアアアアアア!」 ウインダムはうつ伏せ状態のエレキングに馬乗りになり、ガシガシと腕を振り下ろして後頭部を殴り出した。 ウインダムがエレキングと格闘している間に、ゼロは才人に指示してカプセルの入った箱をルイズに手渡させる。 『ウインダムのことはルイズ、お前が見ててくれ。俺と才人はゼロアイを取り返しに行ってくる!』 「ええぇぇ!? 見ててって、どうすればいいの!?」 『危なくなったら、カプセルに戻してくれ。「戻れ!」って念ずるだけで手の中に戻ってくる。 じゃ、行くぞ才人!』 「ああ! 頼んだぜルイズ!」 「あっ、ちょっとぉ!」 説明もおざなりに、才人はルイズをその場に置いて駆け出して行ってしまった。 「ゼロ、盗人がどっちに行ったか本当に分かるのか!?」 『ああ、気配はちゃんと感じる――』 ゼロの超感覚を頼りに入り組んだ路地を走っていく才人だったが、その行く先の空に、 八角形の円盤が街中から飛び上がるのを目撃した。 「え、円盤だ!!」 「うぉッ! 何だあの空飛ぶ皿みたいなもん! あんなもん見るの初めて――いや、遠い昔に見たような気がしなくも……」 デルフリンガーが何か言っていたが、気にしている暇はなかった。ゼロがこんなことを言い放ったからだ。 『ヤバいぜ! ゼロアイを奪った奴は、あの円盤の中だ!』 「何だって!?」 その台詞に才人がまたも慌てる。相手が地上にいるならまだ追いかけようがあるが、飛ばれてはどうしようもない。 ウルトラマンゼロになれば飛行できるが、そのために必要なウルトラゼロアイは敵の手中だ。 「くっそぉ! 何か方法はないのか……!?」 打つ手が思い浮かばず、思わず周辺に視線を走らせる。と、空を見上げた時に、円盤とも魔法衛士隊とも違う飛行物を発見した。 「形が違う飛行物体が出てきたわよ! あれ、私たちでどうにか出来ないかしら?」 「無理。せいぜい、街の人の避難を助けることくらいが限度」 それはハルケギニアに来てから日の浅い才人の数少ない知人、シルフィードに跨ったタバサとキュルケだった。 「キュルケたち!? 何でこんなところに……」 ここで二人が街に来ていたことを初めて知って面食らう才人だが、すぐにある考えが彼の中に浮かび上がる。 「あッ、そうだ! おーい! キュルケー! タバサー! 頼みがあるんだー!」 「あら? あそこにいるのは……ダーリン? 何をやってるのかしら?」 才人の呼びかけにキュルケたちが気づき、彼の下へと降下していった。 「キイイイイイイイイ!」 「グワアアアアアアア!」 エレキングは自分の上からはね飛ばしたウインダムへ放電光線を放つ。ウインダムはそれを、 身体を傾けて回避し、姿勢を戻すと同時にレーザーを発射。エレキングの右の角をへし折った。 「キイイイイ!」 途端に一歩前に踏み出していたエレキングの動きが停止する。そこにウインダムはもう一発レーザーを撃ち、 反対側の角も吹き飛ばした。更に喉元から地面に垂直にレーザーを振り下ろし、胴体も焼く。 このとどめの攻撃が効いて、エレキングは木端微塵に吹っ飛んだ。 「た、倒した!」 「おおー!!」 生き残りの魔法衛士隊や逃亡中の民たちが興奮して大声を上げる。 「グワアアアアアアア!」 エレキングを倒したウインダムに、街を攻撃していた円盤群が押し寄せてきて、弱点の額のランプを狙って光線を撃ってきた。 「グワアアアアアアア!」 だがウインダムは咄嗟に頭を抱えたことで弱点を守り、頭を上げたと同時にレーザーを放って円盤群を粉砕していく。 「おおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」 街中から上がる歓声。ウインダムの活躍により、街を攻撃していた勢力はほとんど撃退された。 「何だ。危なくなったらって言ってたけど、あいつ強いじゃない」 ウインダムのことを託されたルイズはこの結果を見て、拍子抜けすると同時に安堵した。 しかし、侵略者の攻勢はこれで終わりではなかった。 「あッ!? あれは何だ!?」 急に空の一部が歪むと、それまで透明になって隠れていたコンテナ型の大型宇宙船が家屋を押し潰して着陸。 コンテナが開くと、中から全身赤い怪獣が這い出てきた。奇怪なことに、首の両端にクチバシが存在している。 かつて史上最大規模の侵略で地球を未曾有の危機に陥れたゴース星人の操っていた怪獣、 双頭怪獣パンドンだ! 「ガガァッ! ガガァッ!」 パンドンは立ち上がるとすぐに、一方のクチバシから火炎を吐いてウインダムを攻撃した。 不意打ちを食らったウインダムは火達磨になる。 「グワアアアアアアア!」 ランプにまで火が回ってショートを起こし、バッタリと倒れてしまった。 「あわわわッ! も、戻れッ!」 これはまずいと判断したルイズにより、ウインダムは黄色いカプセルの中へ戻された。 カプセルは自動でルイズの手の平の中へ飛び込んでくる。 「ガガァッ! ガガァッ!」 ウインダムを倒したパンドンは、そのまま火炎を吐き続けて街を焼き尽くしていく。 一瞬でもこのまま救われると思っていたトリステインの民は、この光景を目の当たりにして 深い絶望感に駆られた。 またパンドンが街を焼く様子を、八角形の円盤の中から別の意味で恨めしげに観察している者たちがいた。 『エレキング……よもやあんな怪獣にやられるとは、情けない!』 『このままでは、侵略した領土割譲の際にゴース星人につけ入られるではないか』 憎々しげに唱えているのは、エレキングの主であった二人組の宇宙人、ピット星人である。 ウルトラゼロアイを奪っていったのはこのピット星人であった。 彼女たちはクール星人やパンドンを連れてきたゴース星人、シャドー星人の他、様々な宇宙人と組んで宇宙人連合を結成していた。 ハルケギニアを護るウルトラマンゼロを下し、この星を侵略するためだ。 『けれど姉者、心配はありません。最大の障害であるウルトラマンゼロを変身できなくしたのは、 我々の手柄。それを材料にすれば、この程度のことでゴース星人に大きな顔をされるのは防げましょう』 『そうだな。こんな古臭い文明を潰す程度のことは誰でも出来るが、ウルトラマンゼロを抑えることは 我々にしか出来ないことだからな』 ピット星人たちはハルケギニアの民を完全に舐め切り、またウルトラマンゼロにも既に勝ったつもりでいた。 とそこに、円盤の警報が鳴り渡って、自分たちの円盤に急接近してくる者の姿がモニターに表示された。 『むッ!? 飛竜だと……。そして、後ろの奴はウルトラマンゼロの変身者ではないか!』 それはシルフィードに乗った二人組。前でシルフィードに指示しているのは主のタバサ。 その背後についているのはキュルケではなく、デルフリンガーを背負った才人だった。 二人の姿を見たピット星人の姉がせせら笑う。 『どうやらウルトラゼロアイを取り返しに来たようだが、何とも愚かな。この円盤に比べれば、 奴らなど蚊トンボと同じ。撃ち落としてくれるわ!』 すぐに円盤から光線が発射され、シルフィードを狙う。 しかし、光線は当たらない。シルフィードは光線発射に敏感に反応し、機敏な動作でかわし続ける。 『何ぃ!? 小癪なッ!』 いら立ったピット星人が光線発射の間隔を狭めるが、それでも結果は変わらなかった。 遂にシルフィードは円盤の高度を超え、無防備な上方へ回り込んだ。 キュルケとタバサを呼び寄せた才人は、どうにか無理を言ってキュルケと交代してもらい、 シルフィードでピット星人の円盤へ運んでもらっていた。円盤からの攻撃をかいくぐっていく中で、 才人が深く感心する。 「すげぇなタバサ! 全然攻撃を食らわないじゃん!」 「撃ち落とすのは無理でも、回避なら専念すれば問題ない」 タバサが淡々と答えた時、シルフィードは円盤を超えて上部に回り込んだ。 「ここまで来たら十分だ! ありがとな!」 才人は礼を言うと、デルフリンガーの柄を握った。その途端にルーンが光り、身体が軽くなる。 ギーシュの時と同じ現象だ。どうやら武器を掴むと身体能力が向上される力がルーンにあるようだが、 深く考えている暇はない。 「とおぉーうッ!」 強化された身体能力を活かして、円盤の上に飛び移る。その直後にシルフィードがまた下に潜り込んでいき、 円盤の注意を引きつけてくれる。 「さて、飛び移ったのはいいが、どうやって中に侵入するか……」 『そこにハッチがある。どうにかこじ開けられないか?』 ゼロの示したところに、確かに正方形の切れ目があった。だが取っ手のようなものは存在しない。 もちろん指をねじ込む隙間だってない。 「そんなこと言われてもなぁ……」 「相棒! 俺を使え!」 悩んでいると、デルフリンガーがそう言ってきた。そして目を配った才人は、デルフリンガーの刀身がいつの間にか、 サビの浮いた今にも折れそうなものではなく、今まさに研がれたかのように光り輝くものに変貌していたことに仰天した。 「うわぁッ!? お前、一体どうしたんだ!? さっきまでと全然違うじゃん!」 「これがほんとの俺の姿さ! まぁついさっきまですっかり忘れてたんだがな。まだ何か すげえことが出来た気がするんだが、とにかく切れ味は保証するぜ!」 「何だかよく分かんないけど、分かった! うおおおおぉぉぉぉぉッ!」 デルフリンガーを抜いた才人は、それでハッチを斬りつける。するとハッチは綺麗に切り落とされ、 円盤に穴が開いた。 才人が穴に飛び込んで内部に侵入すると、ピット星人姉妹はこれ以上ないほど驚愕した。 『な、何ぃ!? お前、どうやって入ってきた!?』 『人間の力でこの円盤に穴を開けただと!? 馬鹿な!』 「ウルトラゼロアイを返してもらうぜ!」 才人はすぐにピット星人に飛び掛かって、ウルトラゼロアイを取り返そうとする。だがピット星人の姉がそれより早く動いた。 『そうはさせん! これを見るがいい!』 コンソールのスイッチを押すと、壁の一部が開いて、ガラスの窓が出てきた。そこから、 大勢の人間が無重力空間の中に囚われている隣の部屋の様子が見える。クール星人がさらった人々は、 この円盤内に閉じ込められていたのだ。 『どうだ! 下手に動けば、この人間どもの命が――がふぅッ!?』 言い終わる前に、超人的なスピードで接近した才人の袈裟斬りで斬り伏せられた。 『姉者ぁぁぁぁ!? おのれ、よくも姉者をッ!』 怒り狂ったピット星人の妹が光線銃を乱射するが、信じられないほどの速さで動き回る才人は全てかわし切る。 『何だとぉ!? き、貴様、人間なのか!?』 「人間舐めんなぁぁぁぁぁぁぁ!!」 才人は妹も斬り伏せると、その手から放り出されたウルトラゼロアイをキャッチ。すぐに顔に装着する。 「デュワッ!」 ようやく、才人の肉体がウルトラマンゼロへと変化する! 「ガガァッ! ガガァッ!」 トリスタニアの街並みは、パンドンによって火の海に変えられていく。それを食い止める者は誰もいない。 人々の心には、この先に待っているのは滅亡しかないのかと、諦めに近い絶望感が広がっていた。 「ど、どうしよう。残り二つも投げていいのかしら……?」 ウインダムを回収したルイズは、他のカプセルも使うべきか悩んでいた。 その時、空に浮いていた八角形の円盤が突如爆発。直後に、大地にウルトラマンゼロが降り立つ! 「ウルトラマンゼロ! もう、サイトの奴、遅いわよ!」 口では不満を語ったルイズだが、その表情は晴れ晴れとしていた。 ウルトラマンゼロの両手の中には、円盤から救出された人々がおり、彼らはゆっくりと地上に降ろされた。 『遠見の鏡』でトリスタニアの惨状を見つめるしかなかった王宮の貴族たちは、ウルトラマンゼロの登場に大いに動揺していた。 「あの巨人! あの青と銀の姿は、調査団の報告にあった特徴と一致している!」 「確か、「ウルトラマンゼロ」という名前だとか……」 貴族たちがそれぞれ唱える中、アンリエッタはウルトラマンゼロの姿をじっと見つめると、 胸の前の手をぎゅっと握り締めた。 「ウルトラマンゼロ……どうか、お願いします。トリステインをお救い下さい……」 「セアァッ!」 助け出した人質を降ろしたゼロは、すぐに手の平を合わせた両腕をまっすぐ伸ばすと、 両手の間から白い煙を噴出し出した。かつてウルトラ戦士たちが、怪獣や宇宙人が起こした 大火災を消し止めるために使ったウルトラ水流、消火フォッグ、ウルトラシャワーなどと同等の技で、 このような場合のために体得していたのだ。 ゼロから放たれた消火剤はトリスタニアの街中に広がっていき、火災を瞬く間に消し止めた。 「おぉ! 火が!」 炎に追われていた人々も、これにより救われる。 「ガガァッ! ガガァッ!」 一方鎮火されたパンドンはゼロに敵意を向けて、火炎放射で攻撃し出した。 「シャッ!」 しかしゼロはパンドンの高熱火炎を手の平で難なく受け止めると、ゼロスラッガーを飛ばして反撃する。 「ゼリャアッ!」 ふた振りの宇宙ブーメランはパンドンが反応する時間すら与えず、右脚、左腕、そして首を落とした。 パンドンは崩れ落ちて瞬時に絶命した。 「おおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」 恐るべき火を吐く大怪獣をあっさりと瞬殺したことに、人々は大興奮。 だがその時、次々と策略を破られた宇宙人たちは最後の攻撃に打って出てきた。雲の中から超大型の赤い円盤が現れると、 下部にエネルギーを集中し始めたのだ。それまでとは桁違いの規模の光線を放とうとしていることを、人々は理解した。 「ま、まだ終わらないのか!?」 「もう嫌あああぁぁぁぁぁッ!!」 あらゆる場所で上がる悲鳴、絶叫。だがそれと対照的に、ゼロは全く動じていない。 『しつこい連中だぜ! こいつで、フィニッシュだぁぁぁぁぁぁぁッ!!』 ゼロスラッガーをカラータイマーの両端に装着して、相手が街を丸ごと吹き飛ばす規模の光線を撃ってきたと同時に、 カラータイマーとゼロスラッガーからすさまじい光がほとばしった。と同時に、彼の足元の地面が光線の反動でへこむ。 ゼロツインシュート。それは通常状態のゼロが使う光線技の中で、ワイドゼロショットを超越して最も威力がある技。 あまりの威力の高さに自らが踏みとどまるのにも労力を要するほどで、ゼロのとっておきの切り札の一つなのだ。 ゼロツインシュートは円盤からの光線を押し返していき、円盤そのものに直撃すると、 瞬時に跡形もなく大爆破させた。 超大型円盤の後には、もう敵の勢力が現れる気配はなくなっていた。そこでゼロは、 別の国を襲撃しているという宇宙人たちへとテレパシーを発信する。 『よく聞け侵略者ども! 俺はウルトラマンゼロ! 宇宙のワルは許さねぇッ! これ以上この星に手を出すんだったら、 俺が飛んでってテメェら全員ぶっ飛ばしてやる!』 脅しを掛けて、二本の指を突き立てる。 『お前らがこの星を侵略しようなんて、二万年早いぜッ!!』 その文句が効いたのか、ゼロの感覚は全ての円盤がハルケギニアから宇宙へ撤退していくのを感じ取っていた。 『これでとりあえずは大丈夫だな……』 確信したゼロは、首なしのパンドンの死骸を抱え上げて、空へ飛び上がる。 「ジュワッ!」 ウルトラマンゼロも去ったことで、トリスタニアは焼け焦げながらも平穏を取り戻した。 宇宙人の侵略をくじくと、ゼロは才人の姿に戻ってブルドンネ街の路地裏に帰ってきた。 「いや全く、おでれーた! 相棒の中の奴があんなとんでもねー巨人だったなんてな! 驚きの連続だ! 何だか懐かしい感じもするけどな!」 背負っているデルフリンガーが騒いでいるのを置いて、才人はゼロに侵略者たちについて質問をする。 「なぁゼロ。宇宙人たちは、本当にあのまま引き上げていったのかな?」 それに対するゼロの答えは、否定だった。 『いや。侵略者ってのは本当にしつこいもんだからな。脅したくらいじゃ諦めたりしないだろう。 いずれまた、俺たちに挑戦してくるはずだ』 「そっか……」 今回は運にも助けられてどうにかなったが、次に侵略者が狡猾な魔の手を伸ばしてきた時にも上手く行くとは限らない。 才人はいつやってくるか分からない敵に対する心構えを固めた。 なんてことを考えていると、彼の行く先からルイズとキュルケの声が聞こえてきた。それがどうも、 ルイズが噛みついているようだ。 「ちょっとキュルケ! その持ってる剣はどういうことよ! あんた剣なんていらないでしょ!? 一体何をするつもりなのよぉ!?」 「ふふん。ルイズ、あなたに私のすることを咎める権利があって? 別に私が剣くらい持っててもいいでしょう」 キュルケを一方的に敵視するルイズが、彼女の購入した大剣を見咎めて問い詰めているみたいだ。 才人は面倒なことになりそうな予感を覚えて、ハァとため息を吐いた。 「あッ、ダーリンだわ! ダーリ~ン! どこ行ってたの~? 心配したのよ~!」 「こらぁ! 話はまだ終わってないわよ! 誰がダーリンよ誰が!」 こちらに気づいたキュルケとルイズが走ってくるので、才人は逃げる訳にもいかず、彼女たちの方へ歩いていった。 前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/1116.html
前ページ次ページゼロの使い魔・ブルー編 「う、ううむ…………」 いかほど気絶していたのだろうか? ギトーは覚醒した。いや、なんか能力値とか跳ね上がる訳じゃなく、 普通に目が覚めた。車輪が石に当たる音が聞こえる。 気絶する前の最後の一瞬を思い出す。 確か『ライトニング・クラウド』が何故か自分に当たって……。 そこまで言って、ギトーは身を跳ね上がらせる。 「そ、そうだ!『土くれのフーケ』はどうした!?」 「もう終わったよ」 と、後ろから声がする。 「なんだと!?」 と振り返ると、そこには確かに フーケらしき人物が何か妙な格好で倒れていた。 なんというか、驚愕の表情を保ったまま固まっている。 近寄って触ってみると、まるで石のようだった。 「これは……どうなってるんだ?」 「秘密」 「……まぁ、それは良いが、何で更にロープで縛ってるんだ?」 その疑問に、タバサではなくアセルスが返す。 「聞きたいことがあるんだ」 「聞きたいこと?」 ロープで少々粗くもしっかりと縛ると、ルイズがギトーに言う。 「先生、すいませんがちょっとあっち向いてて貰えますか?」 「何でだ?」 「えー、と……それは秘密です」 「……まぁ構わんが」 彼女の言葉に、ギトーは釈然としない様子だったが、従い、適当な方向を向く。 彼の耳に、水の音が聞こえてくる。 「もう良いですよ」 「な、なにが起こったんだい!?」 その声にギトーは振り向く。 そこには、さっきまで石のように固まっていたフーケが縛られながらも暴れていた。 その様子を見て、ルイズの使い魔の青年が言う 「観念してください。杖ももう奪いました」 そう言うと、フーケはおとなしくなる。 次いで、アセルスがフーケに問う。 「ちょっと聞きたいんだけど」 「なんだい」 「君のゴーレムに刺さっていた剣だけど、どうしたの? あの後小屋を探しなおして見たけど、無かったんだ」 「あんたなんかに君呼ばわりされる年じゃないがね。 まぁいいか。あの剣なら妙な格好をした男にやったよ」 「……え?」 「途中で立ち寄った村でいきなり見つけられたもんだから、 口止め料としちゃあ何だがその剣を渡したのさ」 「そ、そんなぁ……」 うなだれるアセルス。 そこに、ギトーが口を挟む。 「すまんが……アセルスとか言ったかな?魔法学院まで来て貰う」 「……何で」 「その女は『土くれのフーケ』と呼ばれる泥棒だ。 それと戦っていた君に幾つか聞きたいことがある」 返事も聞かずに、ギトーはフーケの方に近づく。 「『土くれのフーケ』。当然、お前にも魔法学院まで……」 と、フーケの顔を見た瞬間、ギトーが驚きに満ちた表情で言う。 「ミス・ロングビル?」 「……そうだよ」 『土くれのフーケ』、ミス・ロングビルと名乗っていた女はその疑問に答えた。 「そうか、ミス・ロングビルが『土くれのフーケ』じゃったのか…… 美人だったものだから、何の疑いもなく採用してしまったわい」 学院長室で、5人の報告を受けたオスマンは呟く。キュルケは、火傷の治療のためここにはいない。 その5人とコルベール加えたをくわえた6人は、お前それはどうよ、と思っていた。 自分以外の全員からの冷たい視線に晒され、オスマンは冷や汗をかきながら咳払いをする。 「と、ともかくじゃ、フーケを捕まえた諸君らの健闘、心より祝いたい。 『火返しの鏡』は残念だったとは言え、『盗賊の指輪』は取り返した」 「当然の結果です」 と、言ったギトーに対して、他の四人がすかさず言う。 「何もしなかったよね……先生」 「役に立ってない」 「むしろ足手まといだったね」 「いない方が良かったな」 華麗な四連携であった。ギトーが硬直する。とそこに、オスマンが続けた。 「もとより期待しておらん」 訂正。華麗な五連携であった。ギトーが崩れ落ちる。精神的LPが5は減っただろう。 「さて、フーケは城の衛士に引き渡した。『盗賊の指輪』も宝物庫に収まった これで万事解決じゃな。」 一旦間を空けてから、オスマンは続ける。 「ミス・ヴァリエール。君の『シュヴァリエ』の爵位申請を宮廷に出しておいた。 今ここにはいないが、ミス・ツェルプストーも同様にじゃ。 タバサ嬢はすでにシュヴァリエの称号を持っているので、 代わりとして精霊勲章の授与を申請しておいた」 そう言うと、ルイズは顔をほころばせる。 オスマンはまだ続けた。 「さてさて、今日は『フリッグの舞踏会』じゃ。この通り『盗賊の指輪』も戻ってきたことだし、 予定通り執り行う。アセルス殿……でしたかの?あなたも良かったら客人として出てはいかがかな?」 「うーん……じゃあ、出させて貰うかな」 「なら歓迎させて貰おう!さて!今回の主役は君たちじゃ!精々着飾るのじゃぞ!」 二人は礼をし、残りの二人は礼をせず、一人は崩れ落ちたままで、 その後4人が外に出ようとする。動かなかったのは、ブルーであった。 ルイズがそれを見て言う。 「ブルー?」 「後で行く」 ブルーが素っ気なく言うと、ルイズは心配そうな顔をしながらも去っていった。 何故心配していたかというと、馬車の帰り道で、タバサと話してからずっと様子が変なのである。 どこか遠くを見ているような、そんな感じであった。 タバサに何を話したのか後で聞いてみるのも良いかも知れない。 ルイズは何か話の切っ掛けになるような事を考えた。 思いつかない。どのような話ならこの少女は話してくれるだろうか。 考えている間に、どんどんと廊下を進んでいく。 ルイズは、取り敢えず一つの話を持ち出した。 「それにしても、あの『盗賊の指輪』って凄いわね」 「…………」 タバサは黙ったままである。 それでもルイズは続けた。 「人の姿を消すなんて。『盗賊の指輪』って言うけど、本当に盗賊が持ってたら大変じゃ……ない」 何故最後の方遅くなったのかというと、何か違和感を感じたからである。 なんでオスマンはあのとき「秘密じゃ」と言ったのだろうか。 ルイズはある考えに思い至り、廊下を逆走して学院長室へと向かった。 転じて、学院長室。 「……何かわしに聞きたいことがあるようじゃな」 そう言って、オスマンはコルベールに退室を促す。 コルベールは納得はしてなかったようだが、外に出た。 その後、ブルーは口を開いた。 「『盗賊の指輪』は、俺の知ってる人間が持っていた道具だ」 「ふむ、知り合いかね?」 「いや、俺が一方的に知ってるだけだ。それは何処で手に入れたんだ? ……いや、『火返しの鏡』だったか、それもだ」 オスマンは、その言葉を聞くと、何かを思い出すように黙り込み、 その後重く口を開けた。 「それらをわしにくれたのは、どちらもわしの命の恩人じゃ」 「そいつらはどうしたんだ?」 「『火返しの鏡』を持っていた人間は、今どこにいるかは知らん。 『盗賊の指輪』を持っていた人間は、死んでしまったよ」 「……なんだと?」 「それほど昔のことでも無いのだがな、 わしが森を散策していると、ワイバーンの群れにおそわれたのじゃ。 そこを彼女が救ってくれたのじゃ。彼女は、『盗賊の指輪』を使い、 わしを逃がしてくれたのじゃ。だが、彼女は酷い怪我をしておった。 わしは彼女を助けようとしたのじゃが……」 オスマンは俯いた。 「間に合わんかった。彼女は「まぁ、因果だね」などと言っておった。 何をしてきたのかは知らんがの……」 その話にも心を動かすことはなく、冷静にブルーは次の話を聞いた。 「『火返しの鏡』は?」 「あれは、30年ほど前じゃったかのう。 わしはワイバーンに襲われておった。」 どんだけワイバーンにおそわれてるんだ? 「じゃが突如現れたその男は……あれは銃だったのかのぅ? とにかく、それでワイバーンを吹き飛ばしたのだ。 その後、何か妙な道具を取り出して、なにやら叫ぶと消えてしまった。 その時に『火返しの鏡』を落としていったのじゃよ」 「……消えた?」 「そう、突然スッパリとじゃ」 ブルーは考え込む。 それはもしかしたら―― 「済まない、その道具は残っていないのか?」 「残っておらん……その道具が必要なのかね?名は何というのだ?」 ブルーはその名を告げた。 「『リージョン移動』だ」 「『リージョン移動』?ふむ、聞いたこと無いの…… それは一体何なのだ?」 「リージョン間を移動するための『ゲート』を作り出すために必要な道具だ」 「リージョン?」 ブルーは考え込んだ。 なんと言えばいいのだろうか? 取り敢えず思いついた言葉で置き換える。 「……そうだったな、別の世界と思ってくれ」 「ほう、では君は他の世界から来たのか?」 ブルーは考え込んだ。 言ってしまって良い物か、と。 だがここまで言ってしまった以上、もはや余り変わらないだろう。 「そうだ」 「そうか……帰りたいのかね?」 「帰らなくてはならない」 「……解った。君には恩がある。 その『リージョン移動』とやら、調べてみよう」 「……感謝しよう」 「でも……」 「何だ?」 「何も解らなくても、恨まんでくれ。なあに、こっちの世界も住めば都じゃ。 嫁さんだって探してやる」 ブルーは彼には珍しく、ため息をついた。 いや、もしかしたらもう一人の方かも知れないが。 突如、外から声が聞こえてきた。 「ミス・ヴァリエール!なんですか!?」 「ちょっと学院長に聞きたいことがあるんです!」 ブルーとオスマンは顔を見合わせる。 オスマンは、二人に入ってくるようにと言った。 入ってくると、ルイズはオスマンに尋ねた。 「失礼を承知で聞きます、学院長は透明になれる『盗賊の指輪』を何に使ってたんですか?」 オスマンが止まる。そして、ぎこちなく返す。 「ハハハ、何を言っていルのかねミス・ヴァリエール。宝物庫ニあるモノをどうやってつかうというのかネ?」 「鍵持ってるじゃないですか学院長」 コルベールがルイズの言葉を継いで言う。 オスマン、動揺しまくりである。 「いや、それはだな……」 その様子を見て、コルベールが禿げた頭に手を当て、 呆れながら言う。 「……大体解りました」 後は何も言うまい。『盗賊の指輪』はオスマンの手には置けないので、 その後の話し合いで、宝物庫の鍵ごとコルベールが預かることとなった。 さてさて。 ギーシュはこの舞踏会にてある人物に会いたいと思っていた。 『土くれのフーケ』を捕まえるのを協力したと言う、剣士である。 この『フリッグの舞踏会』に招待されたらしい。 なぜギーシュがそのことを知っているかというと、生徒の殆どが知っているからである。 一応秘密にされていても、あの夜の轟音は殆どの生徒が聞いていたし、 それで目が覚めた生徒達の一部が、ゴーレムを目撃している。 更に教師の一人が急用で居なくなり、 宝物庫の壁に大穴が開いていれば馬鹿でも予想は付くという物である。 だいたい、教師より生徒の方が圧倒的に数が多いのだ。 教師の耳に入らなくても、生徒の耳にはいることの方が圧倒的に多い。 そして、こういう時の子供達の結束は素晴らしいである。 バラバラに聞き集めた断片を、ものの見事に一つの物にしてしまった。 最もオスマンはこのことに気付いていて、 本当に隠したい――先ほどのブルーとの話などは、 すぐ外にいたコルベールさえも聞けてないのだが。 とにかく、ギーシュはその人物に会いたいと思っていた。 舞踏会の直前に聞いた話だと、鋼のゴーレムを剣で真っ二つにしてしまったとか。 剣を使うと言うことは平民なのだろうが、 ギーシュはブルーとの決闘以降平民に対する認識を改めている。 それが誰なのか知っているであろうブルーが、 バルコニーにいるのを見つけ出すと、彼は問うた。 ブルーは無言で指さした。ギーシュがそちらの方を向くと、 なにやら凄い人集りが出来ている。黄色い声も聞こえてくる。 近寄ってみると、彼の耳にも黄色い声の具体的な内容が聞こえてきた。 「アセルス様!私と―」 「いえ、私と踊ってくださいまし!」 ダンスの申し込みをしているらしい。 ギーシュはゴーレムを剣で切ったと聞いてから、 豪傑みたいな感じかとかと思っていたが、 とんでもないイケメンだったりするのだろうか、とも思い始めた。 まぁ、とにかく見てみれば解ることではある。 「すまないが、少しどいてはくれないかね?」 その言葉に、黄色い声を上げていた女子生徒達が、一斉にギーシュの方を向く。 思いっきり敵意のこもった目で。いや、殺意の方が近いかも知れない。 「あなたはギーシュ・ド・グラモン!」 「アセルス様にも手を出そうというのかしら!?」 「いや、僕は男色の気はない……ってケティ?」 「アセルス様が男ですって?」 「え?そう聞いてるけど……違うの?」 「……なら、教えてあげるわ」 「魅惑の君」「薔薇の守護者」「美しき方」 「私達のアセルス様よ!」 と素晴らしい連携力で言い、 再びその連携力で今まで群がっていた生徒達が モーゼに分かたれた海の如く真っ二つに分かれる。 つーか、ここはいつから針の城になりましたか? 半妖様と女子生徒自重しろ。薔薇を用意するな。通り道に撒くな。 転がしているその赤い絨毯はどこから引っ張り出してきた? ともかく、その先には半妖様……もとい、アセルスが立っていた。 ギーシュはその姿を見て呆然とする。 「えーと……君、何の用?」 「い、いや、ちょっと一目見て置きたかったから来ただけなんだけど……」 ギーシュは戸惑いながらも言葉を紡ぎ出す。 そして、いつもの調子に戻って次のセリフを言う。 「それにしても、こんなに美しいレディとは思わなかったな。 どうでしょうか、この僕と一曲――」 「アセルス様に手を出すんじゃないッ!」 ギーシュは、近くにいたケティから 二股したときの数十倍の威力のビンタを食らい、 きりもみ回転しながら吹っ飛んだ。まぁ、なんだ。自重しろ。 ルイズが扉から入ると、控えていた衛士が彼女の到着を告げる声を上げる。 それは特に気にせず、ルイズは自らの使い魔の姿を探す。 途中、結構な数の男子にダンスを申し込まれたが、それも気にしない。 そのうち、バルコニーに佇んでいる彼の姿を見つける。 ずっと考えていた自らの疑問を確かめるために、彼の名前を呼ぶ。 「ルージュ」 「ルイズ?」 ルージュは振り返って答えた。 ビックリするかとも思ったが、それほど大きな反応は見せなかった。 が、暫くたつと止まる。そして聞き返してきた。 「どこでその名前を?」 「夢を見たの」 「夢?」 それには返さなかった。代わりにはならないが、問いかける。 「どういう事なの?」 「…………」 黙り込んでしまう。なので、続けた。 「なら聞かないわ」 「ありがとう」 手すりに寄りかかっているルージュの隣まで歩き、 自らも背を手すりに預ける。 ルイズは、ルージュに再び問いかける。 「あなたはどこから来たの?」 「前に言ったけど……」 沈黙。 お前らやっぱり双子だな。 「そ、そうだったわね。キングダムだっけ」 「そうだよ」 「夢を見たのよ。月が一つしかなかった」 返事はない。 「ねぇルージュ。あなたの居たところはどんな所なの?」 「一言では語りきれないよ」 「……それもそうね」 そう言ってから、バルコニーから背を離し、 自らの使い魔の正面に立つと、手を差し出した。 「踊ってあげても、よろしくてよ」 使い魔は、主人の言葉に笑いながら返す。 「身に余る光栄ですね。 一曲、踊っていただけますか?」 そう良い、手を取る。 「おでれーた!」 特に話すことも思いつかないので黙っていたデルフが叫ぶ。 「主人のダンスの相手を務める使い魔なんて、初めて見たぜ!」 二つの月が、夜を照らしていた。 前ページ次ページゼロの使い魔・ブルー編
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/9137.html
前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔 ウルトラマンゼロの使い魔 第四十四話「怪獣パンドンの復讐」 地獄星人ヒッポリト星人 双頭合成獣ネオパンドン 登場 『ブニョもやられたか』 アルビオン大陸の『レコン・キスタ』の拠点の城、そのクロムウェルの居室で、ヤプールが ため息まじりにつぶやいた。それを聞いているのはクロムウェルと、シェフィールド。 シェフィールドは壁際に控えて、人外たちの会話を観察している。 『超獣が育ち切るまでのつなぎとはいえ、こうも口だけが取り柄の能無しばかりでは、いい加減 うんざりしてくるな』 「全くですな。その上で、次は如何なる手を打たれるおつもりで? 我が支配者様」 クロムウェルが同意しつつ尋ね返すと、ヤプールはこう答えた。 『もうその辺の雑魚を遣わせるのは飽き飽きした。そこで、次はわしも一目置く実力者を ゼロどもにぶつけることにする』 「何と! 支配者様が一目置くと!」 驚くクロムウェル。シェフィールドも関心を示した。宇宙人たちはどれも、ハルケギニアの 人間の力を大きく超えた怪物たちなのだが、その中でもヤプールが評価する者とは、一体どれほどの 大怪物なのだろうか。 『ふんッ! ようやく出番か。もっと早くから、私に任せておけばよかったのだ』 考えていると、突然第三者の声が室内に響いた。そして空間の一部が揺らぎ、宇宙人がテレポートしてくる。 原色バリバリの毒々しい体色。頭部には十字型の三本の突起。口は長い口吻で、腹部には赤い発光体。 宇宙人でありながら尻尾が生えている。この宇宙人の名を、クロムウェルが唱えた。 「ヒッポリト星人! 支配者様の許可もなしに、勝手に入ってくるのではない!」 と怒るクロムウェルなのだが、ヒッポリト星人はつまらないものでも見るかのように一瞥しただけで、 クロムウェルを無視する。 『私は宇宙で一番強い生き物、ヒッポリト星人だ。私の手に掛かれば、ウルティメイトフォースゼロを 片づけることなど造作でもないことなのだ。私の手腕のほどを、よぉく見ているがいい』 この場の全員に向けて傲然と言い放つと、次いでヤプールに指を突きつける。 『その次はヤプール人、貴様らだ! 今は協力してやっているが、この星を頂く段になったら、 貴様らも排除してくれるからな。楽しみに待っているがいい』 どう考えてもいらぬ挑発をするヒッポリト星人に、シェフィールドは正気を疑った。所詮表向きの 同盟とはいえ、わざわざ関係をこじらせるようなことを言う必要はあるまい。よほどの馬鹿か、 もしくはそれほど力に自信があるのか。 「貴様ッ! 支配者様に何という口の利き方を!」 一方で、クロムウェルは激昂しヒッポリト星人に攻撃を仕掛けようとした。しかし腕を振り上げる前に、 ヒッポリト星人の目から放たれた怪光線に撃たれて弾き飛ばされる。 「ぐはぁッ!」 『愚か者めが! 貴様のような使い走り如きに、この偉大なるヒッポリト星人の相手が務まると思ったか!』 どこまでも傲慢な振る舞いを見せるヒッポリト星人は、倒れ伏したクロムウェルに侮蔑の 言葉を浴びせた。ヤプールはクロムウェルに少しも気遣うことなく、ヒッポリト星人に告げる。 『その力、期待しているぞ。では、貴様のお得意の地獄をこの星の人間どもに味わわせてやるのだ』 『言われるまでもない! 既に地獄の始まりの一手は打ってあるのだ。虫けらどもが地獄の中で 死に絶えていく様を、とくと見せてくれようぞ! グワッハッハッ……!』 ヒッポリト星人は機嫌よく高笑いすると、その身体が薄れて消え去っていった。 「ハルナの件以降、侵略者どもの動きがパッタリなくなったな。円盤生物の生き残りの一件だけたぁ」 夜の帳が降りたトリスタニアのチクドンネ街。『魅惑の妖精』亭の裏口前の路地で、才人、 人間態ミラーナイト、グレンウェールズの三人が宇宙人とヤプールの動向について話し合いをしていた。 何故店の中でしないのかと言うと、美形の顔をしているミラーとグレンには店の女の子が 絶え間なく纏わりつこうとするので、落ち着いて話が出来ないからだ。そこで才人の休憩も兼ねて、 こうして外で立ち話しているのである。 「まッ、ハルナの時に大分ぶっ飛ばしてやったしな。向こうさんも、そろそろ戦力が底を ついてきたってとこだろうなぁ」 グレンが楽観視して笑うが、それをミラーが咎める。 「油断はなりませんよ。ヤプール人の本来の戦力である超獣が未だに姿を見せてないのですから。 ヤプール自体は今も力を蓄えて、機を窺ってることでしょう。配下の宇宙人も、全て倒した保証は ありません。まだまだ予断は出来ない状況です」 「分かってるって。ヤプールめ、いつ本格的に攻めてきたって、俺たちウルティメイトフォースゼロが 叩き潰してやるぜ! なぁゼロ」 『もちろんだ。奴らがどんなたくらみをしてたって、俺たちは負けねぇ!』 「俺だって、みんなの力になるぞ!」 グレンの呼びかけに、ゼロと才人が気勢を上げた。と、グレンがふとあることを思い出し、つぶやく。 「ところでハルナって言やぁ、あの嬢ちゃん、何だって胸にあんなのつけてたんだ?」 『あぁ、あれか……。何だったんだろうなアレ』 グレンとゼロが言っているのは、春奈が密かに着用していた胸パッドのことだ。しかし、 そもそも服を着る必要を持たない二人は、パッドの意味を分かっていなかった。 「胸につけてるって、何の話だ?」 「それがよぉサイト……」 「グレン」 パッドの存在を知らない才人の問いに説明しようとしたグレンを、ミラーが制する。 そしてゼロも含めて、注意した。 「いいですか? 彼女の名誉のために、その話は口に出してはいけません。特に、サイトには 絶対にバラさないように。分かりましたね?」 「お、おう……」 真顔で、異様な雰囲気で忠告するミラーの迫力に気圧されて、グレンとゼロはたじろぎながらうなずいた。 「なぁ、何の話……」 「何でもありませんよ。今のは忘れて下さい。二度と掘り返さないように」 才人もミラーがはぐらかしていると、フードを被った女がこっちに向かって小走りで駆けてきて、 グレンにぶつかった。 「おっと、わりぃな。大丈夫か?」 グレンが謝って振り返ると、女は三人に慌てた声で尋ねた。 「……あの、この辺りに『魅惑の妖精』亭というお店はありますか?」 「え? それならここですけど……」 答えた才人は、女の声に聞き覚えがあることに気づいた。女も気づいたらしい。そっとフードの 裾を持ち上げて、三人の顔を盗み見る。 「姫さま!」 「女王さんじゃねぇか」 驚く二人の口を、ローブに身を包んだアンリエッタがしっ! と塞いだ。そしてグレンの後ろに 身を隠し、表通りから自分の姿を見られないよう息を潜めた。 「あっちを捜せ!」 「ブルドンネ街に向かったかもしれぬ!」 表通りからは、息せききった兵士たちの声が聞こえてくる。アンリエッタは再びフードを深く被った。 「……隠れることのできる場所はありますか?」 アンリエッタは小さく尋ねる。才人が返答する。 「俺とルイズが暮らしてるここの屋根裏部屋がありますけど……」 「そこに案内してください」 才人たちはアンリエッタをこっそり屋根裏部屋まで連れてきた。アンリエッタはベッドに 腰掛けると、大きく息をついた。 「……とりあえず一安心ですわ」 「俺は安心じゃないですよ。いったい、なにがあったんですか? またお忍びか何かですか? でも、兵隊があんなに騒いでるなんて……」 才人の問いに、こう答えるアンリエッタ。 「ちょっと、抜け出してきたのだけど……、騒ぎになってしまったようね」 「はぁ? この前誘拐されたってのに? そりゃ大騒ぎになりますよ! 姫さま、今じゃ 王様なんでしょ? そんな勝手なことばかりしていいんですか?」 声を荒げる才人を、ミラーが諌める。 「サイト、やめてあげなさい。女王様は、軽率に行動される方ではありません。何かお考えが あってのことですよね」 ミラーの取り成しにうなずくアンリエッタ。 「そうです。大事な用がありまして……。ルイズがここにいることは報告で聞いておりましたけど……、 まさか、グレンたちもいらっしゃったとは」 「偶然ですね」 「とにかくルイズを呼んできます」 部屋を出ようとする才人を、アンリエッタが引き止めた。 「いけません」 「ど、どうしてですか?」 「ルイズを、がっかりさせたくありませんから」 「ルイズに会いに来たのでないなら、いったい何の用でここに?」 ミラーの質問に、アンリエッタは三人を見回して告げる。 「使い魔さんに、明日までわたくしの護衛をお願いしに参ったのです」 「お、俺? なんで俺なんすか? 護衛なら魔法使いや兵隊がいっぱい……」 「今日明日、わたくしは平民に交じらねばなりません。また、宮廷の誰にも知られてはなりません。 そうなると、使い魔さんぐらいしか、思いつきませんでした」 「そんな……、ほんとに他にいないんですか?」 「ええ。あなたはご存知ないかもしれませんが、わたくしはほとんど宮廷で一人ぼっちなのです。 若くして女王に即位したわたくしを好まぬものも大勢おりますし……裏切り者も、おりますゆえ」 才人はワルドのことを思い出した。 「わかりました。他ならない姫さまの頼みでしたら……」 引き受けようとする才人の言葉を、ミラーがさえぎる。 「いえ、ルイズの使い魔のサイトが長時間姿をくらましてたら、彼女が心配するでしょう。 ここはグレン、あなたが女王様をお護りしてさしあげなさい」 「え? 俺だけ?」 腕を組んでなりゆきを見守っていたグレンが、変な声を上げた。 「別に嫌って訳じゃねぇけど、ミラーちゃん、お前も一緒じゃ駄目なのか?」 「あまり多くの人数で動くのは、目立っていけません。護衛は一人が無難なところでしょう。 だったら、ウェールズ皇太子の身体のあなたが、女王様も気兼ねなく出来て適任ですよ。 女王様も、グレンでよろしいでしょうか?」 「は、はい。何の不満もありません……」 アンリエッタは頬をやや赤らめて了承した。 「まぁそういうんなら、引き受けるぜ。よろしくな、女王さん」 「こ、こちらこそ、よろしくお願い致します……。ともかく、出発いたしましょう。いつまでも この辺りにはいられませんわ」 「どこに行くんだ?」 「街を出るわけではありません。その辺りの宿に身を隠しましょう。とりあえず、着替えたいのですが……」 「そうですね。兵士と遭遇した際にバレないように、変装された方がいいでしょう。お手伝いします」 ミラーが提案すると、才人がルイズ用に用意した平民の服をアンリエッタに貸した。しかし サイズが違いすぎるので、シャツが張り詰める。上のボタンを二つほど外して、いささか 目のやり場に困るがようやく自然になった。 「おぉ、過激な……」 『お前ら、はしたねぇぞ』 「んなこと言われたって……」 才人とグレンが鼻をおさえていると、ゼロにたしなめられた。一方でアンリエッタはミラーに 髪型を変えてもらい、化粧も施されて変装を終えた。 「これで、顔をよく知らなければ女王様とは分からないでしょう。私たちはここに残って、 兵隊が尋ねてきたら、偽の情報でも渡して捜査を足止めします」 「ご協力、感謝いたします」 「グレン、しっかりと女王様をお護りしてあげるのですよ」 「分かってるっての。さッ、女王さん、行こうぜ」 「人目のある場所では、わたくしのことは『アン』とでも呼んでくださいまし」 「そっか、分かった。じゃあアン、行こうぜ。兵士がこっち来てるみたいだ」 アンリエッタはグレンの後に続いて、こっそりと妖精亭から抜け出した。 それからグレンとアンリエッタは、粗末な木賃宿の一室を借りた。『魅惑の妖精』亭の屋根裏部屋以下の ボロ部屋だった。 「ひっでぇ部屋だな。これで金取んのか。俺はジメジメしてんのが嫌いなんだがなぁ」 「素敵な部屋ですわ。少なくともここには、寝首をかこうとする毒蛇はおりません」 「ヘンな虫は沸いてそうだぜ」 「そうですわね」 微笑んだアンリエッタは、煤だらけのランプに魔法で火を灯し、グレンと並んでベッドに腰掛けた。 「さて女王さん。わりぃけどウェールズはまだおねむなんで、俺が代わりに時間潰しの話し相手を務めるぜ」 グレンが冗談交じりに言うと、アンリエッタはこう返す。 「すみませんが、わたくし、女王と呼ばれるのはあまり好みではないのです。ルイズたちのように、 姫、とお呼びいただけますでしょうか?」 「そうなのか? でも俺が姫さんって呼んでるのはもう別にいるからなぁ……。あんたと 面を合わすことはないだろうけど、一応区別はつけたいしな。なげぇけど、アンリエッタ姫さんでいいか?」 「構いませんが……グレンの世界にも、わたくしと同じ立場のお人がいるのですね」 ぼやくグレンに尋ね返すアンリエッタ。 「エメラナっていうお姫様さ。まだ若いけど度胸もある、みんなから愛されるいい女だぜ。 アンリエッタ姫さんみてぇにな」 と言うと、アンリエッタは顔を曇らせる。 「わたくしは、そのエメラナという方とは違います……」 「そうか? 街の人たちは、あんたを『聖女』なんて呼んでるじゃねぇか」 「確かに表では皆口をそろえてわたくしをそう呼びますが、ルイズからの報告では、手厳しい 言葉ばかり聞きますわ。アルビオンを下からただ眺めあげるだけの無能な若輩と罵られ、 アルビオンへの遠征軍を編成するために軍備を増強しようとすればきちんと指揮できるのかと 罵られ、果てはゲルマニアの操り人形なのではないかと勘ぐられ……、まったく、女王なんかに なるものではないですわ。誰からも愛される、あなたの世界のエメラナ姫が羨ましいです」 「そうか……そっちも大変なんだな」 相槌を打ったグレンは、アンリエッタに問いかける。 「アルビオンと、ホントに戦争するのか?」 『レコン・キスタ』から度重なる侵略行為を受けたトリステインは、ゲルマニアと同盟を組み、 空に浮かぶ大陸に攻め入ろうとする戦支度を着々と進めているところだった。グレンを始め、 ウルティメイトフォースゼロはそれに複雑な思いを抱いている。 「するもなにも、わが国は今、真っ最中ですわ」 「そうじゃなくて、今度はこっちから攻め込もうってんだろ? ……戦争じゃ、多くの人間が 死ぬのは避けられねぇぜ」 「おっしゃる通りですが、このままでは、我が国土は蹂躙されるばかりです。こちらから、 侵略者の傀儡を征伐しなければ、終わりは来ないでしょう」 と語るアンリエッタだが、グレンは押し黙る。 「……戦争はお嫌いですか?」 「そりゃあな。喧嘩は好きだが、何の罪もねぇ人たちが戦いに巻き込まれんのはごめんだ。 ……俺たちがさっさと、アルビオンの陰で糸を引いてる連中を片づけられりゃあ、 アンリエッタ姫さんを困らせることもねぇってのに……」 ヤプール人は異次元人。常に異次元に身を潜めているため、こちらから打って出ることは不可能に近い。 ヤプールの厄介さの原因の一つだ。後手に回らざるを得ないウルティメイトフォースゼロは、 被害の発生を未然に防げないことに忸怩たる思いを抱いているのだ。 己を責めるグレンを、アンリエッタは励ます。 「グレンたち皆さんは、ハルケギニアのためによく戦ってくれてるではありませんか。感謝こそすれ、 不満なんてありません。それにわたくしは、わたくしたちの守護者の皆さんのお力になりたいのです。 いつまでも助けられっぱなしではいられません」 「アンリエッタ姫さん……」 「それと、もう一つ……わたくしは、敵にかどわかされそうになった際に、多くの人を犠牲にしました。 わたくしはその自分と、そうさせた人たち……ウェールズさまが負け戦に身を投じようとも 守り通そうとした誇りを踏みにじった者たちが、どうにも赦せないのです……」 レコン・キスタを隠れ蓑にするヤプールが、卑劣にもウェールズの遺体を利用し、アンリエッタを 誘拐しかけた事件。その際に、何人もの人間が命を落とした。ウェールズも、グレンファイヤーが 助けていなければ、死を汚されたまま朽ち果てていたことだろう。 つぶやくアンリエッタの肩が震える。グレンは慰めようとしたが、自分がどこまで行っても ウェールズではないことを思い返し、その手を止めた。 夜が明けて、昼。中央広場、サン・レミの聖堂が十一時の鐘を打つ中、ウェザリーの劇団も その舞台に立った劇場の前に、一台の馬車が停車。中から初老の男性が降りてきた。その正体は トリステインの司法を担う高等法院長リッシュモン。しかしそれでいながら、アルビオンに金で トリステインの情報を売り、工作員を手引きする売国奴なのであった。操られたウェールズや ウェザリーの劇団などを招き入れたのも、彼である。 そんなリッシュモンは、普段劇場をアルビオンの密使との密談の場にしているのだが、 今日はアンリエッタの突然の失踪について質問をするために、いつもの密使と落ち合うよう 手配していた。アンリエッタの失踪は、自分の知らないところで行われたアルビオンの陰謀なのか、 はたまた第三勢力の仕業なのか、見極めて身の振り方を考えねばならないと、彼は焦っていた。 自分の保身のために必死なのである。 顔パスで劇場に入り、検閲のための専用の席に座る。場内の客は、若い女性に人気の演目なので そればかりだが、今日は珍しく、最前列席に男性が座っていた。誰かの連れだろうが、気にするところではない。 演劇が開幕しても、待ち人はなかなか来ない。苛立ちを覚えていると、深くフードを被った女性が 隣に腰掛けた。リッシュモンは小声でたしなめる。 「失礼。連れが参りますので。他所におすわりください」 しかし女性は席を立たず、それどころかリッシュモンに話し掛けた。 「観劇のお供をさせてくださいまし。リッシュモン殿」 フードの中の顔に気づき、リッシュモンは目を丸くした。失踪したはずのアンリエッタその人であった。 「これは女が見る芝居ですわ。ごらんになって楽しいかしら?」 とぼけたように問うアンリエッタに、リッシュモンは落ち着き払った態度を取り戻して返答する。 「つまらない芝居に目を通すのも、法院長の仕事ですから。そんなことより陛下、お隠れになったとの 噂でしたが……。ご無事でなにより」 「劇場での接触とは……、考えたものですわね。あなたは高等法院長。誰もあなたが劇場にいても、 不思議には思いませんわ」 「さようで。しかし、接触とは穏やかではありませんな。この私が、愛人とここで密会しているとでも?」 リッシュモンは笑った。しかし、アンリエッタは笑わない。狩人のように目を細める。 「お連れのかたなら、お待ちになっても無駄ですわ。切符をあらためさせていただきましたの。 偽造の切符で観劇など、法にもとる行為。是非とも法院で裁いていただきたいわ」 「ほう。いつから切符売りは王室の管轄になったのですかな?」 アンリエッタは緊張の糸が途切れたように、ため息をついた。 「さあ、お互いもう戯言はやめましょう。あなたと今日ここで接触するはずだったアルビオンの 密使は昨夜逮捕いたしました。彼はすべてをしゃべりました」 アンリエッタは一気にリッシュモンを追い込んだが、リッシュモンは余裕の態度を崩さない。 「ほほう! お姿をお隠しになられたのは、この私をいぶりだすための作戦だったというわけですな! 私は陛下の手のひらの上で踊らされたというわけか!」 「わたくしにとっても不本意ですが……、そのようですわ」 リッシュモンは邪気のこもった笑みを浮かべた。ちっとも悪びれない態度に、アンリエッタは 強い不快感を覚えた。 「わたくしが消えれば、あなたは慌てて密使と接触すると思いました。『女王が、自分たち以外の 何者かの手によってかどわかされる』。あなたたちにとって、これ以上の事件はありませんからね。 慌てれば、慎重さはかけますわ。注意深いきつねも、その尻尾を見せてしまう……」 「さて、いつからお疑いになられた?」 「確信はありませんでした。あなたも、大勢いる容疑者のうちの一人だった。でも、わたくしに 注進してくれた者がおりますの。……信じたくはなかった。あなたがこんな……。王国の権威と 品位を守るべき高等法院長が、このような売国の陰謀に荷担するとは」 あまりの裏切りに、アンリエッタは目がくらむ思いでさえいる。幼い頃より自分を可愛がってくれた 人間の本性がこれとは……。しかし、立ち止まる訳にはいかない。自分の使命を果たすと、グレンに 誓ったのだ。毅然とした口調で、リッシュモンに告げる。 「あなたを、女王の名において罷免します、高等法院長。外はもう、魔法衛士隊が包囲しております。 おとなしく、逮捕されなさい」 リッシュモンはまるで動じない。そればかりか、舞台を指差して、さらにアンリエッタを 小ばかにした口調で言い放つ。 「野暮を申されるな。まだ芝居は続いておりますぞ。始まったばかりではありませんか。 中座するなど、役者に失礼というもの」 リッシュモンが手を打つ。すると、今まで芝居を演じていた役者たちが……、男女六名ほどであったが、 上着の裾やズボンに隠した杖を引き抜く。そしてアンリエッタめがけて突きつける。 若い女の客たちは、突然のことに震えてわめき始めた。 「黙れッ! 芝居は黙って見ろッ!」 激昂したリッシュモンの、本性をあらわした声が劇場内に響く。 「騒ぐやつは殺す。これは芝居じゃないぞ」 辺りが静寂に包まれる中、アンリエッタは静かにつぶやく。 「役者たちは……、あなたのおともだちでしたのね」 「ええ。私の脚本はこうです。陛下、あなたを人質にとる。アルビオン行きの船を手配してもらう。 あなたの身柄を手土産に、アルビオンへと亡命。大団円の喜劇ですよ」 「あいにくと、悲劇のほうが好みですの。こんな猿芝居にはつきあいきれません」 「命が惜しければ、私の脚本どおりに振る舞うことですな」 リッシュモンが脅しを掛けた時、劇場内に、場違いなあくびが響いた。 「ふぁ~あ」 「! 何だ! そこの男、勝手に立ち上がるんじゃない! 私の脚本の芝居中だぞ!」 見ると、最前列の男が伸びをしながら席を立っていた。呑気にも今まで眠っていて、状況に 気づいてないのか? ともかく、妨害が入ったことにリッシュモンは怒る。 しかしうつむき気味の男は、杖を突きつけられていることも意に介さず、リッシュモンに言い返した。 「あんたの脚本だぁ? じゃああんた、相当才能がねぇんだな。あんまりにも退屈なんで、 寝ちまったよ。これで金取ろうなんて、笑っちまうぜ」 「な、何だと!?」 「役者も下手くその大根ばっかりだ。ウェザリーの指導を受けた俺の方が、よっぽどいい演技するぜぇッ!」 男は一足飛びで舞台に上がり、リッシュモン配下のメイジたちに飛び掛かった。まさかの行動に 驚いたメイジたちが対応できないでいるわずかな間に、六人全員を素手で蹴散らした。駄目押しに、 杖もへし折る。 「ほらな。俺の方がいい演技だろ」 顔を上げた男……グレンが、リッシュモンに不敵な笑みを向けた。 「なッ、ウェールズ!? ……いや、貴様は噂に聞いた、ウェールズ似の流浪の傭兵、グレンか! 素手で腕利きのメイジも圧倒する、メイジ殺しの……!」 「え? 俺ってそんなに有名になってんの? いやぁ、照れるな~」 舞台の上でカラカラ笑うグレンを直視し、リッシュモンは驚愕で固まった。アンリエッタが言う。 「本来彼をお連れする筋書きではなかったのですが、あなたの非道が許せないと、劇に加えることを 頼み込まれましてね。せっかくなので、こうして主演男優をお任せしたのです」 「何! 本来の筋書きではない……では!」 予感を覚えたリッシュモンが辺りを見回すと、おびえていたはずの女性客たちが隠し持っていた 短剣を抜き、一斉にリッシュモンを取り囲んで突きつけた。全員、銃士隊の隊員たちであった。 「お立ちください。悲劇のカーテンコールですわ。リッシュモン殿」 アンリエッタが冷たい声で告げると、グレンが打ち消した。 「違うぜアンリエッタ姫さん。こいつは勧善懲悪の大活劇だぜ!」 リッシュモンはゆらりと立ち上がる。そして高らかに笑いながら、ゆっくりと舞台に上る。 周りは銃士隊が取り囲む。怪しい動きをすれば取り押さえる態勢であった。 「往生際が悪いですよ! リッシュモン!」 「ご成長を嬉しく思いますぞ! 陛下は立派な脚本家になれますな! この私をこれほど 感動させる芝居をお書きになるとは……。しかしながら、私の脚本にはまだ続きがあるのです」 「何ですって?」 この状況で、まだ出来ることがあるというのか。アンリエッタは目を細め、銃士隊も警戒を一層強める。 「陛下、お喜びを。ここからは、あなたのお好みの悲劇ですぞ!」 リッシュモンはマントの裏から、両手で何かを取り出した。杖ではない。球体を乗せた 船のような形状の、奇怪な物体。銃士隊は虚を突かれ、一瞬固まる。 それが事態の分かれ目だった。直後に、劇場は激しい揺れに包まれる。同時に怪獣の鳴き声が、足元から。 「キィィィィッ!」 「!? やべぇッ! アンリエッタ姫さん、全員外へ!」 「は、はい!」 グレンが指示を飛ばして、銃士隊を外へ走らせるが、脱出し切る前に劇場の床が突き破られ、 二つの頭を持つ赤い怪獣がせり上がってきた! 「きゃあああぁッ!」 「危ねぇッ!」 崩落に巻き込まれそうになるアンリエッタへグレンが飛びこむ。そして、劇場は下から現れた 大怪獣に突き破られ、粉々に破壊された。 「キィィィィッ! キィィィィッ!」 劇場の瓦礫を蹴散らして、真っ赤な体色の双頭の怪獣がトリスタニアに踏み出す。当然街は大パニック。 その中で、子供が怪獣を指差してこう言った。 「あいつ、前に街に火を放った奴にそっくりだ! 復讐に来たんだ!」 子供の言う通り、怪獣の正体は、最初の宇宙人のハルケギニア侵攻の際に、ゼロに首を落とされて 敗れたパンドンの遺伝子を改良して再生させた強化体であった。 『生まれ変わったパンドン、ネオパンドンよ、行けぇッ! 人間どもに火炎地獄を見せてやるのだ!』 虚空の狭間に身を隠しているヒッポリト星人が、トリスタニアに進撃を開始するネオパンドンに命令を下した。 前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/9174.html
前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔 ウルトラマンゼロの使い魔 第五十七話「飛べ!ダイナ」 異次元人アクゾーン 巨大化怪獣ゲラ 音波怪人ベル星人 登場 ガリア王都リュティスで、突然謎の場所に引きずり込まれてしまったタバサとイザベラ。 トドラに襲われる二人を救ったのは見知らぬウルトラマン、ダイナ、そして風来坊を自称する 青年アスカ。彼はここがベル星人の疑似空間であると語る。脱出するには、ベル星人と その共犯の異次元人アクゾーンを倒さなければならない。敵兵士に扮して敵の城に侵入する 三人だったが、アクゾーン首領メビーズ二世には見破られていた! アクゾーンはゲラを 始めとする、メタモルシステムで巨大化させた怪獣軍団をハルケギニアに送り込むという 恐るべき計画を立てていた。阻止しなければ、ハルケギニアの人々が危ない。それにも関わらず、 首領の甘言に惑わされたイザベラが裏切る! しかもイザベラもまた、首領に裏切られて 殺されそうになる。進退窮まる大ピンチ。タバサは、イザベラは、そしてアスカという男はどうなるのか!? 「ウワーッハッハッハッハッハァッ! 実にいいザマだ、侵入者ども! 何とも愉快!」 アスカ、タバサ、そしてイザベラを床に這いつくばらせた首領メビーズ二世は、狂ったように哄笑する。 「トドラと、我が兵士の一部を倒されたことには腹が立ったが、その原因がこれほど無様な姿を 晒しているのを見るのは、非常に気持ちが晴れ晴れとするわい!」 下衆な嗜好を臆面もなく表し、ニヤニヤと品のない笑いを顔に張りつける首領。そして、アスカに 向けて言い放つ。 「特に貴様のような奴の醜態は最高だぞ、ウルトラマンめッ!」 「えッ!? ウルトラマン!?」 首領の吐いたひと言に、彼に踏みつけられているイザベラが驚愕する。 「な、何を馬鹿なことを……あの風来坊とか抜かす平民がウルトラマンだなんて、そんなことは……」 信じられずにつぶやくと、それを聞き止めた首領が鼻で笑った。 「ふんッ、このガキどもには教えていないようだな。しかし、私の目をごまかすことは出来ない。 先代の侵略計画が80にぶち壊されてから、私はウルトラマンというものを特に警戒しているのだ。 そこの男、貴様がウルトラマンの仮の姿だということは突き止めているぞ!」 首領に対して、アスカは叫び返す。 「仮の姿じゃねぇ! アスカ・シンとウルトラマンダイナ、両方とも俺だ!」 「同じことよ! 貴様がウルトラ戦士だということはなッ!」 アスカが否定しなかったことで、イザベラはますます絶望する。 あの平民の男と強大なるウルトラマンが同一存在など、そんなことが本当にあるのだろうか? 姿も大きさも、全然違うではないか……いや、ウチュウ人というものは人間に姿を変えることが 出来るという情報は聞いている。侵略者に出来ることが、ウルトラマンに出来ないなんてことも ないだろう。ならば、本当に彼がウルトラマンダイナ……。 ということは、知らなかったこととはいえ自分は最後の希望、ウルトラマンを裏切ったことになる。 今彼は、うつ伏せの状態で銃を突きつけられ、全く身動きの取れない状態だ。自分が、その状況に追い込んだのだ……。 (し、仕方なかったんだよ! わたしが倒さなくたって、どうしようもない状況下だったじゃないか……!) 往生際が悪いイザベラは、自分自身に言い訳する。だが、倒れているアスカがじっと自分を 見つめていることに気づくと、後悔と罪悪感がふつふつと心に沸き上がった。 (や、やめて! わたしをそんな目で見ないでよッ! わたしを……責めないでッ!) ぐっと顔を歪ませ、アスカを直視できずに目を背けるイザベラ。 「ハッハハハッ! ウルトラマンめ、貴様らが命を賭してでも守る人間に裏切られた気分はどうだぁ! 所詮人間など、このガキのように利己的な薄汚い生き物なのだよ! それを必死に助けている貴様ら ウルトラ族は、イカレているとしか言えんなぁ! ウワーハッハッハッハッハッハァーッ!」 ここぞとばかりにアスカを愚弄する首領。その言葉が、イザベラの胸を余計に締めつける。 「フフフ、戯れはこの辺にしようか。いよいよ貴様らには、黄泉の国へ旅立ってもらおう! まずはこの愚か者の娘からだ」 首領が手に持った光線銃を、足元のイザベラの頭に向けた。 それを感じ取ったイザベラは、死への恐怖で一気にパニックに陥った。 「いやああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!! やめてぇッ! 殺さないでぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ!!」 火事場の馬鹿力というものか、気が動転したイザベラの暴れる力はすさまじく、首領は不意を 突かれる形になって一瞬動揺した。 「うおッ!? くそッ、無駄な抵抗はするなッ! どこまでも醜い……!」 イザベラの必死の抵抗で、兵士たちの気も一瞬それた、その時のことである! 「うおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ―――――――――――!!」 「何ぃッ!?」 アスカが瞬時に起き上がり、なりふり構わずに首領に体当たりをしたのだ! 全く予想していなかった 首領はよけることも叶わず、アスカに突き飛ばされる。 「大丈夫か!?」 アスカはそれに構わず、イザベラを助け起こす。だがそこで我に返った兵士が撃った光線が左肩に命中する。 「うッ!!」 「あ……アスカッ!」 兵士たちはそのままアスカとイザベラを蜂の巣にしようと構える。 だがその瞬間に、敵の意識から外れたタバサも動いた! 跳びはねるとまさしく風のように 軽やかに舞い、杖とガッツブラスターを拾い、兵士たちが反応する間もなく首領を立たせて盾にする。 ブラスターの銃口をその頭に向ける。 「やめさせて」 「ひぃッ! う、撃つな! 撃つんじゃないぞぉッ!」 顔が引きつった首領は兵士たちに命じた。これにより敵の動きが止まる。 その間に、アスカはイザベラの容態を確認した。 「怪我は、ないみたいだな……」 「ど、どうして……?」 イザベラは、信じられないものを見る目をアスカに向けた。 「ん?」 「どうして、裏切ったわたしを助けたの!? あんな無茶をして! 一歩間違えてたら、死んでたのよ!? 正気の沙汰とは思えないッ!」 イザベラは、アスカという人間の考えが全く理解できなかった。あんなひどい裏切りをした相手を、 自分の身も省みずに、危険を冒して救い出す。どれほど誉れ高い騎士でも、ここまでする者などおるまい。 現に撃たれた。 自分が王女ということは、アスカには関係のないこと。いやいくら王女の身分でも、誰からも 見捨てられても仕方がないことを自分はしたのだ。それなのにこの男は……聖人君子か何かか? するとアスカは、こう答えた。 「間違いは、誰だってするさ」 「え……?」 「あんな危険な状況だったんだ。気の迷いを起こしたって仕方ないさ。その迷いが、君を見捨てる 理由にはならないよ。ましてや、君はまだ子供だしな。子供を助けるのに、おかしいことなんて一つもないだろ?」 本当に信じられない。どこまで心が広いのだ? 「それに間違いは、生きてれば正せる。死んだら正せられないぜ」 「正す……?」 「ああ。俺だって今日まで、ウルトラマンダイナになってばかりの頃は特に、何度も間違いを犯した。 でも、たくさんの人に支えられて、間違いを正してやってこれたんだ。だから君にも、間違いを改める チャンスを掴んでほしい」 アスカはじっと、イザベラの目を見つめる。その瞳を覗き見て、イザベラはアスカが自分を さっきも今も責めていないことを理解した。自分をどう助けようか考え、今は心の底から安心し、 かつ案じている温かい眼差しだ。 醜い姿を見せた自分のことを、本気で考えてくれているのだ。 「イザベラ、君がどんな人間なのか、どんな生き方をしてきたのか、俺は全然知らない。 でも、君にも人として正しい道を歩んで、立派な大人になってほしい。たくさんの人に対して、 俺はそう思ってる。だから俺は、ウルトラマンとして戦ってるんだぜ」 ニカッと気持ちよく笑うアスカ。その腕に抱かれて……イザベラは頬を赤らめた。 しかしその時、城の外から耳をつんざく怪音波が発生。タバサ、イザベラ、アスカの三人の頭を締めつける! 「うぅッ……!?」 「きゃああああッ! こ、この音は!」 「ベル星人……!」 いつの間にか、城の外にはベル星人が現れていた。タバサがひるんだことで、首領が逃げ出す。 「ハハハハハ! 形勢逆転だぁー! やれぃッ!」 兵士たちに命ずる首領。だがそれより早く、アスカが動いていた。 「タバサ! ブラスターを俺に!」 タバサが投げ渡したガッツブラスターを、アスカはジャンプしてキャッチ。そのまま宙を 舞いながら光線を発射し、兵士を数人纏めて射抜いた! 「何だとぉ!?」 「ていッ! おりゃあぁぁッ!」 怪音波のダメージを受け、肩に傷を負い、何人もの兵士たちに狙われながらも、アスカは敢然と 切り込んでいった。兵士たちの間に飛び込み、素手の格闘で周りの二三人を一気にノックアウト。 他の兵士が銃を撃ってくるが素早くかいくぐり、兵士たちは流れ弾で同士討ちする。 「ば、馬鹿者! 何をやっとるか!」 首領が怒鳴りつけるが、もう遅い。兵士はバッタバッタと倒され、最後の一人にアスカの 回し蹴りが炸裂した。兵士は全員バッタリと倒れる。 更にタバサが魔法で、兵士たちの手足を凍りつかせた。これで生死を問わず、もう立ち上がれなくなった。 「見たかッ! 俺の超ファインプレー!」 「おのれぇー! アクゾーンッ! をなめるなぁ!」 堂々と見得を切るアスカだが、首領は最後の手段を用いる。メタモルシステムの装置に飛びつき、 転送アンテナを地面に向ける。そしてスイッチを押し、ゲラを電送してアンテナから射出した! 実体化したゲラは、城よりも巨大な怪獣へと変貌していた! 「ギャオオオオオオオオ!」 ゲラは城に腕を振り下ろし、破壊を始める! その震動が、アスカたちを襲った。 「きゃあぁッ!?」 「うおおぉぉッ!? ヤロォー……!」 アスカたちがよろめいた隙に、首領は窓から外へ逃げ出した。すぐにタバサが追いかけようとしたが、 アスカに制止される。 「タバサ! 城には大勢の人が残ってる。君たちは彼らを連れて脱出するんだ!」 「アスカは……!?」 「俺は、あいつらと戦ってくるぜ!」 城を破壊するゲラをにらんだアスカが、懐から手の平サイズの何かを取り出した。ウルトラマンの顔が 彫刻されている、レリーフのようだ。 「本当の戦いは、ここからだッ!」 アスカがレリーフを掲げる。すると上部の一部分が開き、青く輝く細長いクリスタルが現れた。 そのクリスタルから眩い光が発せられ、アスカの全身を包む。 光となったアスカは外へ飛び出し、ゲラに激突して城から突き飛ばした。 「ギャオオオオオオオオ!」 「ジュワッ!」 光はあっという間に大きくなり、人型となる。そして光が、赤と青と銀色のウルトラマンへと変わった。 先ほどトドラを倒し、タバサとイザベラを救った光の戦士、ウルトラマンダイナその人だ! 「ウルトラマン……! 本当にアスカが、ウルトラマンなのね……!」 ダイナの雄大な背中を見つめてつぶやくイザベラに、タバサが呼びかける。 「早く、脱出を!」 「わ、わかってるわよ!」 タバサの後を追いかけて、イザベラが天守閣から脱け出していった。 「デヤッ!」 城を背にかばい、大地に立ったウルトラマンダイナ。背中を若干かがめ、平手の形で両腕を 前に出して敵に面と向かう。 「ギャオオオオオオオオ!」 それに対するは、威嚇するように高々と咆哮する巨大化怪獣ゲラ。そしてその背後にたたずむ、 不気味な雰囲気を纏う宇宙人、ベル星人。 「ギャオオオオオオオオ!」 一番に動いたのはゲラだ。口を大きく開き、火炎放射を繰り出す。まだタバサたちのいる城を 背にしているダイナは、よけることは出来ない。 「フッ!」 するとダイナは両手を構え、円形のウルトラバリアを張った。火炎は光の盾にさえぎられ、 ダイナはその間に右側へ回り込む。 「ギャオオオオオオオオ!」 ダイナの動きを目で追ったゲラは、火炎放射をやめて突撃を仕掛ける。だがダイナのカウンターパンチが その鼻先に炸裂! 「ダァッ!」 「ギャオオオオオオオオ!」 その一撃でひるむゲラ。ダイナはすかさずチョップの連撃を叩き込んでからの回し蹴りを決めた。 首を蹴り飛ばされ、倒れるゲラ。 「デヤァァァッ!」 ダイナの攻勢は止まらない。尻尾を鷲掴みして、一回転しながらゲラを投げ飛ばした! 宙に舞ったゲラは地面に叩きつけられる。 「ギャオオオオオオオオ!」 ダイナは更に追撃を掛けようとしたが、そこでベル星人が怪音波を強烈に発し出した。 「グゥゥゥゥ!?」 脳をギリギリ締めつける凶悪な攻撃に、さしものダイナもたまらず苦しむ。ベル星人に向き直り、 光線技を放とうとするも、 「ウゥッ!」 動かした左肩に激痛が走り、手が止まった。アスカの時に撃たれたダメージが響いたのだ。 うめいたダイナにベル星人の方から接近、側頭部をしたたかに殴って彼を転倒させる。 「ウワァッ!」 倒れたダイナを無惨にストンピングする。ダイナは後ろ蹴りを打って反撃するが、ベル星人はすかさず 後退してキックをかわした。 起き上がるダイナだが、そこに持ち直したゲラが迫ってくる。 「ギャオオオオオオオオ!」 「ウワアアアアッ!」 お返しとばかりに散々に殴るゲラ。更にベル星人の怪音波攻撃も重なり、ダイナはなすままにやられる。 前衛のゲラと後衛のベル星人のコンビネーション攻撃に、歴戦の戦士、ウルトラマンダイナも 反撃の糸口を掴めずに追い詰められる。危うし、ダイナ! その時、タバサとイザベラがアクゾーンにさらわれた人々を引き連れて城から脱出してきた。 彼女らは苦戦するダイナの姿を見上げる。 「! アスカ、頑張れぇッ!」 イザベラが、思わず叫んだ。その応援が、ダイナの耳に届く。 「フッ! デヤァッ!」 「ギャオオオオオオオオ!」 後方へ飛び込むように転がりゲラの攻撃から逃れると、即座に体勢を立て直して両腕から大型の光刃、 フラッシュサイクラーを飛ばす。その攻撃はゲラとベル星人の両方に降りかかり、二者の動きを止めた。 その隙にダイナが構えを取って精神を集中すると、額のクリスタルが渦巻く光の粒子を放出した! 「ンンンンン……デヤァッ!」 そしてダイナの体色が、青と銀の二色に変化した! 「姿が、変わった!?」 「あれは……」 驚くイザベラたち。タバサは今のダイナの姿が、ゼロのルナミラクルに似ていると感じた。 似ているのは当然である。この力はゼロのタイプチェンジ能力の元の一つとなった、ダイナの特殊能力。 青い姿は超能力に特化した、ミラクルタイプだ! 「ギャオオオオオオオオ!」 ここで立ち直ったゲラが再度ダイナに突進を掛けようとしたが、ダイナは残像が残るほどの 超スピードで動き回り出す! 「デヤッ!」 「ギャオオオオオオオオ!?」 ゲラはその動きを目で追うことも出来ず、混乱して右往左往する。ベル星人もまた困惑しているようで、 しきりに首を振っている。 「ダァァッ!」 立ち尽くすベル星人に、ミラクルタイプのダイナの飛び蹴りが炸裂した! ベル星人は思い切り 吹っ飛んで倒れ伏す。 「ギャオオオオオオオオ!」 立ち止まったダイナを狙い、ゲラが火炎放射を繰り出す。しかしダイナは手の平を突き出すと、 火炎を全て受け止め始める。 「デヤッ! アァァァァ……!」 手の平に集まる炎が青色に変色していき、火炎放射が途切れたところでゲラに投げ返す。 ミラクルタイプの必殺技、レボリウムウェーブ・リバースバージョンだ! 「デヤァッ!」 「ギャオオオオオオオオ!」 自分の炎を返されたゲラは、棒立ちになって動かなくなった。その隙に、ダイナはリング状の 光線を作り出し、ゲラに投げつけた。 リング型の光線が、その内にゲラを入れながら降りていく。それに合わせてゲラの肉体も たちまち縮小し、元の大きさまで戻った。超能力で、メタモルシステムの効果を打ち消したのだ。 これを見たベル星人は、すぐに空へ飛び上がって逃げようとし出した。最早勝ち目はないと 悟ったのだろう。しかし、ここで逃がしてはまた疑似空間の犠牲者が出てしまう。 「シュワッ!」 そこでダイナも飛び立ち、ベル星人を追跡する! ベル星人は最高速度を出して、右へ左へ、上へ下へと複雑に曲がってダイナの追撃をかわそうとする。 だがミラクルタイプはスピードにも長ける。本気を出すと、その速度は亜光速にも達するのだ! ベル星人が逃げ切れるはずがなく、ピッタリと追いかける。 「フッ! デヤァッ!」 ダイナは両手先から青い光線、ハンドシューターを発射。見事ベル星人の背面に命中し、 ベル星人はフラフラと地面へ墜落していった。 しかしまだ倒れた訳ではなく、グロッキーになりながらも立ち上がる。そこで着地したダイナは、 とどめの一撃を仕掛ける! 「デヤァァァァッ……ジュアッ!」 額のクリスタルに添えた右手を中心に、空間が圧縮されていく。そして生じた衝撃波を、 まっすぐにベル星人へ放った! レボリウムウェーブ・アタックバージョンだ! 衝撃波を食らったベル星人はくの字に折れ曲がり、更に背後にマイクロブラックホールが出現。 それに吸い込まれたベル星人は、音もなく圧殺されて消滅した。 ベル星人の消滅を見届けたダイナだが、その時に森から円盤が一機飛び上がる。逃走したアクゾーン首領の 乗る機体だ。これで逃亡しようというつもりのようだ。 「デヤッ!」 しかしそれも叶わなかった。ダイナの投げ放った光刃、ビームスライサーが吸い込まれ、 円盤は一瞬の内に爆散した。疑似空間の悪しき侵略者は全て滅びたのだった。 「やったわッ!!」 大歓喜するイザベラたち。が、タバサが喜んでいられないことを告げる。 「待って! 森が……消えていってる!」 「えぇッ!?」 見れば、自分たちを取り囲む風景の森が、一部分ずつ切り取られていくように消滅していくのだ。 ベル星人が倒されたことで、その力で作られていた疑似空間が消え去ろうとしているのである。 「も、森が完全になくなったら、わたしたちはどうなるの!?」 「わからない……。最悪、死ぬかも」 「嘘でしょ!? だ、誰か助けてぇーッ!」 大慌てするイザベラだが、それは杞憂だった。ダイナが脱出した人間たちに、ひと筋の光線を浴びせたのだ。 「デヤッ!」 すると全員が、どこかへと転送されていく。テレポーテーション能力を光線化して当てることで、 人間たちを消えゆく疑似空間から脱出させているのである。 「ま、待って……!」 イザベラは思わずダイナに手を伸ばす。しかし、ダイナも早く逃げなければ危ない。彼は元に戻った ゲラを拾い上げると、両腕を空へ伸ばし、天高く飛び上がる。 「ジュワッ!」 その光景を最後に視界が暗転し、疑似空間も誰も巻き込むことなく消滅したのであった。 ……気がつけば、タバサとイザベラ、そして大勢の人たちは、森を臨む草原の上に寝転がっていた。 「こ、ここは……?」 「……リュティスの森」 起き上がったイザベラに、タバサが答える。この場所は見覚えがある。疑似空間の不気味な世界とは違う、 静かな自然の中。イザベラも狩りで訪れたことのある、プチ・トロワの近くの森の入り口だった。 「……あ、アスカは? ダイナはいるの?」 イザベラは辺りを見回して、アスカの姿を探す。しかし、タバサが無言で首を横に振った。 救出した人たちは皆いるが、アスカの姿だけはこの中に混じっていなかった。 まるで、そんな人間は初めからいなかったかのようだ。 「……夢だったのかしら」 つい、そんな言葉が口から突いて出るイザベラ。だが、タバサはそれも違う、と否定した。 「今拾った」 タバサが差し出したもの。それは、アスカの服に縫われてあった、SとGUTSの紋章のパッチだった。 アスカが、最後に渡したのか。 「……」 無言で受け取ったイザベラは、黙ったままそれを見つめた。 その後、ベル星人とアクゾーンによる人間誘拐事件の事後処理はつつがなく進行し、事件はそっと 幕を閉じた。助けられた人々の口伝により、ガリアで新たなウルトラマンの噂が流行したのだが、 その後学院へ直帰したタバサには関わりのないことであった。 しかし数日後、賊の学院襲撃とウルティメイトフォースゼロ対超獣軍団の戦いがあった後で、 タバサは再びイザベラに呼び出されて、プチ・トロワへ急行することになった。 「全く、あの従姉姫は人遣いが荒すぎるのね! お姉さまが大変な目に遭ったのは、ついこの間なのよ。 自分は一歩も動かないで人のことは事情もお構いなしで、本当いい御身分なのね!」 シルフィードが飛びながら不平不満をまくし立てる。それに対して、タバサはいつもの如く無言。 「ああ、かわいそうなお姉さま。またあいつにいびられるのね……」 シルフィードが嘆く。それもいつものこと。そしてタバサは、いつも通りにプチ・トロワに到着して、 イザベラの前に通された。 「……来たね、シャルロット」 だがここからがいつも通りではない。イザベラは気だるげにベッドに腰掛けて、ぼんやりと明後日の 方向を見やっている。その反応に、タバサは珍しく目を見開くほど驚いた。 何故なら、イザベラはタバサが来る度にわざわざ趣向をこらして、虐待したり嫌味を 散々言い放ったりするのだ。それなのに、今回はいやに大人しいではないか。 「……ガリアの軍港、サン・マロンは知ってるね。そこで爆破未遂事件が相次いでるみたいなの。 今のところ実害は出てないけど、異常事態には違いないわ。あんたは、その原因の究明と解決に行きなさい」 やはり何の前置きの一つもなく、イザベラは淡々と用件だけを伝えた。 「わかった」 タバサはなるべく驚きの感情を出さずに、ひと言返事をして立ち去ろうとした。が、そこで イザベラに呼び止められる。 「待った。これから返事は……これで返すこと」 イザベラがタバサに見せたポーズは……サムズアップだった。 「わかった?」 タバサはやや戸惑いながらも、親指を立てて応じた。それにイザベラは満足した様子を見せる。 踵を返そうとしたタバサだが、またもイザベラに止められた。 「あっ、ちょっと。……シャルロット……その……」 イザベラはもじもじと、何かを言いかけている。タバサが内心疑問に思っていると、イザベラは 意を決して、こう告げた。 「……今まで、悪かったわね。いじめたりして」 「……!」 本当にどうしたというのだ。今日はウィンディ・アイシクルでも降るのではないか? 大袈裟なことをタバサが思っていると、イザベラが片手で、何かをいじっていることに気がついた。 目をこらして見てみると……先日渡した、エンブレムのパッチであった。 前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/6110.html
前ページゼロの使い魔は魔法使い(童貞) 「………なるほど。」 学院長であるオールド・オスマンはルイズ達から話を聞くと大きく頷いた。 「とうとう奴の言っておった者が復活したか………これは厄介じゃのう。」 「オールド・オスマン! そんな悠長なことを言ってないで早くフーケを…」 「残念だがお主ら相手でも勝てんじゃろう。たとえどれだけ数があろうとも。」 「そんな………」オスマンはルイズの声を退けた。そしてルイズ達の顔を見渡し、こう続けた。 「じゃが、対抗する方法がひとつだけある。それはおぬしの力を復活させることじゃ。」 「…………えっ?」 オスマンが杖を向けた相手はすでに魔法が使えなくなったド変態である使い魔のエイジであった。 翌日、ルイズ達とオスマンは宝物庫の中にいた。 はじめてみたそれは見たところガラクタばかりで、ルイズには価値がわかりかねるものばかりであった。しかし―― 「こ、これは………」 ただ一人、使い魔であるエイジはこれらが何であるかを理解していた。 「○○さくらの○○○カードに、○○teの聖杯………コ○ブ○ヤのフィギュアもこんなにいっぱい………!」 エイジは思わず辺りをくまなく見回した。するとそこには美少女のポスターがすきまなく貼り付けられているではないか。 「ここは昔ここに迷い込んできた"魔法使い"が持ってきたものじゃよ。」 オスマンはそういいながら一際頑丈そうな宝箱を開ける。 「ふむ………やはりないか。」 その宝箱には中にあるはずの破壊の杖が盗まれており、その代わりに『破壊の杖確かに頂戴しました 変わり身のフーケ』と印字されていた。 「なんでこんなガラクタがここに………?」 エイジが横で愕然としているのを無視してキュルケはオスマンに質問した。 「数百年前にこの魔法学院に迷い込んできた男がおったのじゃ。奴は自分のことを"魔法使い"だと言っておった。そして奴はこれらの物を"萌えグッズ"と呼んでおったのじゃ。」 「つまり………その彼は"萌"属性の魔法使いだったという事ですね。」 「その通りじゃ。」 ルイズの出した答えにオスマンは嬉しげに頷いた。だがそれを聞いたエイジが思わず手を挙げた。 「自分のいた世界では魔法使いが誕生したのは歴史にして数十年ぐらいのものでありやす。しかし、貴方は数百年前からとおっしゃってましたが、数百年前は確か………」 「人類は滅亡しておったはずじゃ。」 エイジは目を見開いた。確かに自分のいた世界では数百年前に人類は滅んでしまい、魔法使いギルドが再構成したのはほんの数十年前のことなのである。 「こんな言い伝えを聞いたことはないか? 『三十を過ぎた童貞は魔法使いになれる』……と。」 「………童貞? 童貞ってどういう意味なの?」 質問をしたルイズを除く全員が驚きのあまり目を見開いた。 「どっ、童貞というのは、つっ、つまりっ、そのっ、あのっ、」 動揺しまくっているエイジをよそにキュルケは優しく耳打ちした。 「童貞ってね………男の人に対して使う言葉で………うん、まだしてない人のことを童貞っていうのよ。」 「ええええええっ!!!! そ、そんな奴がいっ、いるわけないでしょうが!」 ぐさっ 「あのマリコルヌですら結婚できないことは無いと言われているのに……」 ぐさぐさっ 「まあこの時代じゃ考えられないことなのよね。その……どっ、童貞ってのは。 貴方はどうなの、エイジ?」 「ど、ど、ど、童貞ちゃうわ!」 エイジは動揺のあまり関西弁をしゃべっていることに気づいていなかった。 「つまりここに来た魔法使いはその方法で勝手になったと主張しておったのじゃが………」 「じゃあ勝手になったのではなくてどのようになったのですか?」 「いや、勝手になったのは本当のようじゃ。しかし、それに至るまでの過程を聞いてみるとどうやらなるべくしてなったようでの………」 オスマンは近くにあった萌えグッズに腰を下ろして語り始めた。 「かつて、その男は国中の童貞が集まる都に足繁く通っていたそうなのじゃ。 その都では童貞を守るための聖典が盛んに売買されており、更にその聖典の多くは童貞の手によって作られておった。」 オスマンはエイジの目を見据えた。エイジはビクッとして思わず目をそらす。オスマンは話を続けた。 「童貞が童貞の為に聖典を作り、それを童貞自身が売り、また童貞が買う……… 奴は日常的にこのようなことを繰り返しておったらしい。そして魔法使いになったその瞬間、奴はこの世界に飛ばされたらしいのじゃ。」 「そんな魔法使いがいたなんて………」 ルイズたちは驚愕のあまり言葉も出なかったようだ。オスマンは本題に話を移す。 「しかし、かの魔法使いは既に力を失っておった。ただのド変態になっていたのじゃよ。お前のようにな」 エイジは思わず俯いた。オスマンは「いや、お主を責めるつもりは無いのじゃよ。」と言っているが明らかに嘘だとエイジは思った。 「そこで奴は魔法を復活させる装置を作ったのじゃ」 「装置?」 「そうじゃ。それはここより地下のほうにある。君たちも一緒に来なさい」 言うと、オスマンは萌えグッズの一つを脇に押しのけ、人一人が入れるぐらいの穴に入るように促した。 「これは…………」 ルイズ達は目の前のものに驚愕した。まさか魔法学院にこんなものがあったとは……… そこには白くて大きな建物が待ち構えていた。 それは人を寄せ付けない印象があり、入るものを躊躇させる威圧感があった。 「最終試練『シュレーディンガーの箱』じゃ。この中でエイジは最終試練を受ける。」 オスマンはボタンのようなものをいじりながら話を続ける。 「無論、この試練は過酷でお主にとっては地獄を見るものになるじゃろう。 そしてかの魔法使いはこれで命を失ったのじゃ。」 エイジは目の前にある大きな建物を見つめた。 「この中で………何が?」 目の前の物は何も言わずただ威圧感や重圧感を漂わせているだけだ。 「最後にもう一度確認するぞ? お主はここで地獄を見る。そして命の危険に晒されるかも知れぬ。それでも良いのか?」 オスマンの真剣な表情にエイジは思わず息を呑んだ。そして唇を震わせながらも自分の意思を伝えようとする。 「お、おれ………は………」 エイジが何かを言おうとしたその瞬間、 「勿論よ。早く始めちゃいなさいよ!」 と答えたのはルイズである。 What s!? あまりのサプライズにエイジは思わず英語でそう叫んでしまった。 それを聞いたタバサとキュルケはルイズと一緒にエイジの背中を押す。 「ほら、あんたもただのド変態のままなんて嫌でしょうからさっさと覚醒なり何なりしちゃいなさいよ!」 「そ、そんな! う、受けるのは自分でありやして……」 「だから何? さっさと始めなさいよっ!」 そしてエイジはそのままシュレーディンガーの箱に押し込められてしまった。 尚、このシュレーディンガーの箱は最終試練を受けるエイジとは別にルイズ達は別室でモニタリングすることが出来る。 「エイジー? 聞こえるー?」 そして別室での声はマイクを通してエイジに聞こえるようになっている。しかし逆にエイジの声はルイズたちに聞こえることは無い。 「どうして私たちまでここに?」 ルイズは疑問に思っていたので聞いてみた。オスマンはしきりにボタンをいじりながらルイズの問いに簡潔に答えた。 「君達がエイジの最終試練を見届けることがエイジの最終試練をクリアする近道になるのじゃよ。………さて、準備完了じゃ。」 オスマンは目の前にあるレバーをゆっくりと下げていった。 「さあ覚悟するのじゃぞ、エイジ!」 前ページゼロの使い魔は魔法使い(童貞)
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/9355.html
前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔 ウルトラマンゼロの使い魔 第百十三話「あなたは……だれ?(後編)」 集団宇宙人フック星人 地底怪獣テレスドン 彗星怪獣再生ドラコ 登場 深夜、ガリア南部の廃坑の近くの山地にて……。 「キャア――――!」 二つの月の明かりに照らされながら、山と山の間に一体の巨大怪獣が立った。五本角を持った シルエットの怪獣は、月に向かって己の存在を誇示するかのように甲高い咆哮を発する。 するとその声によってか、地面に伏して寝息を立てていた別の怪獣がカッ! とまぶたを開き、 闇夜に鋭い眼光を光らせておもむろに起き上がった。 「ギャアオオオオオオウ! オオオオウ!」 丸みを帯びたシルエットの怪獣が身を起こすと、五本角の怪獣はそちらに振り向き、牙を 剥き出しにして威嚇する。 「キャア――――!」 「ギャアオオオオオオウ!」 怪獣たちは闘争本能の赴くままに激突、組み合って喧嘩を始めた。互いに一歩も譲らない 争いを展開する……。 だがすぐに、人間の耳には聞こえない周波数の音波がどこからか発せられた。その途端に、 二体の怪獣はピタリと動きを止めた。 そして何事もなかったかのように、二体ともその場にうずくまって暗闇の中に紛れ込んだ……。 朝。タバサとグレンの二人は、朝食を済ますと早速コボルド退治のために、コボルドが 巣食っているという廃坑まで移動した。人の足なら一時間かかる場所でも、シルフィードに 乗れば十分も掛からなかった。 だがタバサとシルフィードはどうも昨日から機嫌がよろしくなさそうだった。その理由は、 アンブラン村での食事。村民の全体的な嗜好なのかどうかは知らないが、、村の料理はどこも かしこも、間違いで老人向けを出されたのかと思うくらいに薄味なのだった。食事は人の元気の源。 二人とも食にはうるさい性質なので、味つけが口に合わないのには大分辟易としたようだ。 それはともかく、炭鉱の入り口を見つけたタバサたちは、見張りのコボルドに見つからないように しながら地上に降り、岩の陰に身を隠した。 岩からグレンが、コボルドに気づかれないよう注意しながらかすかに顔を出し、見張りの 数を確認する。 「見張りに立ってんのは四匹。他に気配はねぇな。外から見えねぇとこに隠れてるなんて こともねぇぜ、間違いない」 それを聞いてタバサは安心した。コボルドは用心深い性質の亜人。自分たちの存在を廃坑の 奥部に潜んでいるだろう群れの本隊に知らされてしまったら、この上なくやりづらくなってしまう。 ロドバルドからの情報によると、コボルドの群れは全部で三十匹程度らしい。単純な計算ならば、 タバサが出せるウィンディ・アイシクルで事が足りる数だが、もちろん戦いとはそんな簡単なものでは ない。廃坑の中は敵に地の利があるし、群れのボスはまず間違いなく先住魔法を操るコボルド・シャーマン だろう。となれば、四方八方から土と石の攻撃を受けることになる。当然そんなことは避けるべき。 そこで立てた作戦は、炭鉱の入り口で火を起こし、煙で中のコボルドたちを燻り出すというもの。 日の光の下に引きずり出してしまえばこっちのものだ。シャーマンも、事前に廃坑の外の精霊と 契約しているほど用意周到でもあるまい。群れのボスさえ倒してしまえば、後は散り散りになって 逃げていくだろう。 タバサたちは早速、作戦を開始した。まずは邪魔な見張りを片づける。見張りの隙を見つけると、 タバサとグレンは二手に分かれて、見つからないように物陰を進みながら、入り口の左右に陣取った。 そして示し合わせて、同時に飛び出してコボルドたちに襲いかかった! 「ウグルルッ!?」 まずは、タバサの速攻の氷の槍が三匹の喉を貫いて、一瞬にして絶命させた。残る一体は 慌てて廃坑へと逃げようと走ったが、顔面にグレンの回し蹴りが決まり、ぶっ飛ばされて 廃坑から引き離された。 直後にそのコボルドにも氷の槍が命中し、たちまちの内に見張りは全滅した。 「これでオーケーだな。後はこの廃坑の中にいる連中をあぶり出すだけか」 つぶやくグレン。タバサはすぐに火を起こすために準備に取りかかろうとする……。 しかしその瞬間に、グレンに石のつぶてが弾丸のように襲いかかってきた! 「うおッ!?」 戦士の勘によってギリギリのところで攻撃を察知し、回避したグレン。タバサは突然のことに 目を剥いて、石つぶてが飛んできた方向へ振り返るが……直後に足元の地面が泥のようにぬかるみ、 二人の下半身が土の中に埋まってしまう。 「!!」 「し、しまった!」 即座に脱しようとしたが、もう遅かった。土は再び固まり、タバサもグレンも半ば埋められた 形になった。これでは身動きを取ることが出来ない! 「ククク、愚かな毛なしザルどもめ。我らを嵌めようとしていたようだが、罠に嵌まったのは 貴様らの方なのだよ」 そんな言葉とともに、周りの草むらの陰より、一匹のコボルドが現れた。その個体は普通の ものよりひと回りほど大きく、鳥の羽根や獣の骨で出来た仮面を被り、獣の血で黒く染め上げられた ローブを身に纏っていた。 間違いない、コボルド・シャーマンである。しかし最も重要な群れのボスが、こんな場所に いることにタバサは心底驚かされた。 どうやら自分たちの強襲を事前に察知して、見張りを囮にした罠を仕掛けていたようだ。 だが、何故自分たちのことを知ることが出来た? コボルドは夜行性、斥候も夜のアンブラン村に しか来られないはずだ。自分たちは夜間には一歩も外に出なかったので、情報を得ることは 出来なかったはず。それなのに……。 「どうして……?」 疑問が口から出ると、コボルド・シャーマンは意気揚々と語り始めた。 「ククク、貴様らの肝を我らの神に捧げる前に、あの世への土産話として教えてやろう。 貴様らのことは、この身に降臨された我らの神が教えて下さったのだ」 「神……?」 「そうとも。我は二十年前にこの地の人間の族長が持つ宝、巨大な“土精魂”を奪い取ろうと して、失敗をした」 “土精魂”というのは、つまり土石のことだ。コボルドは、やはり『アンブランの星』を 狙っていたようだ。 「二十年掛けて壊滅した群れを大きくして、今度こそ宝を手に入れようとしていたある日、 神は降臨され、この身に宿ったのだ!」 誇らしげに述べたコボルドの身体に一瞬、コボルトとは違う怪人の影が被さった。それを 目にしたグレンがあっと驚く。 「あいつには、宇宙人が取り憑いてやがるぜ!」 「!」 タバサは驚きとともに納得した。そして己の迂闊さを後悔した。思えば、コボルドがわざわざ 村を脅迫した時点から何かおかしいことは感じていた。それなのに、そこからコボルド・シャーマンが いるということにしか考えが至らなかった。 もっと深く思慮していれば、更に何らかの裏があることには思い至れただろうに……。 先住魔法の使い手を攻略する手段にばかり気が向いていた己の考えの甘さを恥じるタバサだった。 そしてコボルド・シャーマンに取り憑いている宇宙人は、フック星人。ゼロに倒されたものの 生き残りだった。流浪の末にコボルドの群れに出くわし、獣人に似た顔面から神と誤解された。 そしてそれをいいことに、コボルドを己の手足として利用しているのだ。グレンが先ほど、 シャーマンの存在に気づけなかったのも、フック星人の力に違いあるまい。 「けど、何で宇宙人がこんな田舎の小さな村を狙うんだ!? アンブラン村にゃ何があるってんだ!」 今度はグレンが問う番だった。それらしい理由となる『アンブランの星』は、ロドバルドの 言葉を信じるならもうないのだという。 それにコボルドはクククと笑いながら答えた。 「神は“土精魂”が既にないことも見抜かれた。そしてその“土精魂”が、この土地の人間の 群れに変わっていることも!」 「な、何……!?」 グレンとタバサは、コボルドが一瞬何を言っているのか理解できなかった。 「神は“土精魂”によって作られた人間をご所望なのだ。……そろそろよかろう。貴様らの肝を いただくぞ!」 コボルドが手に持っている節くれだった杖をこちらに向ける。魔法で息の根を止めるつもりだ。 それなのにタバサたちは、文字通り手も足も出せない状態! シルフィードを呼ぶか? いや、自分たちの道連れになるだけだ。しかしどうすれば……! 結局自分にはどうしようもないとタバサの思考が行き着くのに時間は掛からなかった。 「くッ、やむを得ねぇッ!」 彼女の代わりに、グレンが動いた。彼は拘束された状態のまま変身、巨大化して土の中より脱する! 「何ッ! ぐわあああぁぁぁぁぁぁぁ――――――――ッ!」 コボルド・シャーマンは一瞬にして、グレンファイヤーの拳によって叩き潰された。 グレンファイヤーは同時にタバサを土の中から掘り出し、地面にそっと下ろした。 いささか反則気味ではあるが、コボルドの群れの長は倒すことが出来た。が、しかし……。 「ギャアオオオオオオウ! オオオオウ!」 「!」 次の瞬間に、山の間から怪獣が出現した! シャープな頭部に蛇腹状の四肢、地底怪獣テレスドンだ! 『宇宙人が俺たちに対抗するために用意してたのか!』 グレンファイヤーはすぐさまテレスドンに向かって戦闘の構えを取った。 「ギャアオオオオオオウ! オオオオウ!」 テレスドンは口を開き、溶岩熱線を吐いてくる。だがグレンファイヤーはそれを手の甲で打ち払った。 『へッ、この程度の熱攻撃なんざ……!』 「キャア――――!」 勇んだがその瞬間に、背後から更なる怪獣が出現した。 体表にひび割れたかのような網目状の模様がある、彗星怪獣ドラコ! しかも飛行能力の要である 羽がない代わりに、手が五本指となって格闘戦に特化したタイプのものであった。 『ちッ! もう一匹いやがったか!』 「キャア――――!」 振り返ったグレンファイヤーはドラコとがっぷりと組み合う。パワーならチームでも随一の グレンファイヤーであるが、相手も格闘戦特化。グレンファイヤーと対等に渡り合うほどの パワーを見せつける。 「ギャアオオオオオオウ! オオオオウ!」 『でりゃッ!』 そこにテレスドンがグレンファイヤーに背後から襲いかかるが、後ろ蹴りで撃退された。 更にグレンファイヤーは腕の筋肉を盛り上がらせて、ドラコを持ち上げて投げ飛ばす。 「キャア――――!」 『うらぁぁぁッ! どんなもんだぁッ!』 二大怪獣相手にも引けを取らないグレンファイヤーだが、その時テレスドンが地を蹴って跳ぶ。 「ギャアオオオオオオウ!」 そして高速できりもみ回転し、グレンファイヤーに突進! 全身がドリルのようであった! 『うおあぁッ!?』 この強烈な一撃はさしものグレンファイヤーも耐えられず、膝を突く。テレスドンはその 回転のまま地中に潜って姿を消した。 「キャア――――!」 片膝を突いたグレンファイヤーにドラコが殴り掛かり、更にダメージを与える。 『ぐッ!』 張り手を食らわせてドラコを突き飛ばしたが、立ち上がった時に足元からテレスドンの首が 出てきて、足をすくわれてしまう。 『おわぁッ!』 激しく倒れ込むグレンファイヤー。そこをドラコに狙われ、ゲシゲシと蹴りつけられた。 『くッ、このぉぉッ……!』 テレスドンが再び地上に這い出してきて、暴行に加わる。グレンファイヤーが苦しめられる一方で、 タバサの方にもある事態が発生した。 「キャア―――ッ!」 「!!」 グレンファイヤーに潰されたコボルド・シャーマンであったが、その爆散跡からフック星人が 出現したのだ! 潰される直前にコボルドの身体を捨てて回避していたのだ。 フック星人はそのまま背を向けて、山地の奥深くへと逃げていこうとする。このまま逃がしては、 またどこかで大事件を起こすかもしれない。だがグレンファイヤーは怪獣たちに抑えられていて、 フック星人にまで手が回らない。 そこでタバサは今度こそシルフィードを呼び、その背に飛び乗ってフック星人を追いかけ始めた。 一方のグレンファイヤーは、二体の怪獣の挟撃から脱することには成功したものの、フック星人に コントロールされることで隙のない連携を見せる怪獣たちにてこずっていることには変わりなかった。 『どうにかしてどっちか片方を先に倒さねぇと苦しいまんまだな……』 「ギャアオオオオオオウ! オオオオウ!」 テレスドンが口から熱線を吐いてくる。グレンファイヤーは腕でガード。 『だからこんなもんは……そうだッ!』 この時、グレンファイヤーは閃いた。そしてテレスドンの顔面に小さな火球を飛ばして炸裂させる。 「ギャアオオオオオオウ! オオオオウ!」 『へへッ、テメーの火炎なんざそんぐらいの弱火と同じだぜ! もっと力を込めたのを俺に当ててみな!』 眉間に食らってひるんだテレスドンを挑発する。テレスドンはたちまち憤怒し、一層火力を 高めた熱線を吐き始めた。 「ギャアオオオオオオウ! オオオオウ!」 それをかわしながら、あえて怪獣たちの間へと向かっていくグレンファイヤー。 『はッ、こっちだよ!』 そしてテレスドンの攻撃のタイミングを見計らって、ドラコの前を通り抜けていった。 グレンファイヤーに殴りかかろうとしたドラコだが、そこに流れ弾となった熱線が命中する! これがグレンファイヤーの狙いであった。 「キャア――――!?」 「ギャアオオオオオオウ!」 不意打ちを食らったドラコはたちまちの内に火だるまになり、そのまま爆散した。同士討ちを させられたテレスドンは思わず頭を抱える。 『よっしゃあッ! 上手いこと行ったぜ! さぁーてここからが勝負だ! 覚悟しなッ!』 「ギャアオオオオオオウ! オオオオウ!」 戦況を切り返して調子を戻したグレンファイヤーに、テレスドンが再び回転アタックを仕掛ける。 が、グレンファイヤーはそれを真正面から受け止めた。 『その技は見切ったぜぇぇぇッ!』 テレスドンの身体をがっしり抱え込んで、回転を停止させると、高く持ち上げてそのまま 地面に叩き落とした。 『どっせぇッ!』 「ギャアオオオオオオウ! オオオオウ!」 力の差が歴然であることを感じ取ったか、テレスドンは起き上がらずに地面に穴を掘り、 高速で地中へと逃げていく。 『逃がすかってんだぁッ!』 テレスドンの潜行速度は非常に速く、最早止められなかったが、グレンファイヤーは代わりの ように攻撃を放つ。 『グレンスパークッ!』 両腕から巨大火炎弾を発射。しかし水平に飛んでいく火炎弾で、地中に潜っていくテレスドンを どうやって倒すのか。 と思いきや、火炎弾は穴の上に来ると急停止。そして軌道を九十度下に曲げ、穴の中に すっぽりと入っていった。 その数秒後に、盛大な爆炎が穴から噴き上がった。地中でテレスドンが火炎弾を食らい、 大爆発した証拠だった。 怪獣は倒したが、肝心の黒幕のフック星人がまだ生き残っている。そちらはタバサが追跡中で あるが、フック星人は光線銃を乱射して彼女を迎撃しようとしていた。タバサを乗せるシルフィードは 巧みに飛び回り、光線をかわすものの、このままではこちらから攻撃できない。 するとタバサはシルフィードにそっと何かを耳打ちした。シルフィードはうなずくと、 隙を見てフック星人の背後へと素早く回り込む。 即座に反応して振り返るフック星人だが……シルフィードの背にタバサがいない! 「キャア―――ッ!?」 ハッとして向き直ると、地面の上に下りていたタバサがこちらに杖を向けていた。背後に 回り込むと見せかけて、途中で飛び降りてシルフィードだけを旋回させたのだ。 そして放たれるウィンディ・アイシクル。氷の矢はフック星人に引き金を引くことを許さずに、 どてっ腹を貫通した。 ドサリと倒れ込んだフック星人が消滅する。これでコボルドを隠れ蓑にした侵略宇宙人の 生き残りの目論見は完全にくじかれたのだった。 その後、生き残りのコボルドは頭が討たれたことで、アンブラン村から散り散りになって 逃げていった。一体二体だけならそこまで恐ろしい亜人でもない。タバサたちは追撃せずに、 そのまま見逃した。 これで依頼は達成したことになるが……それとは別に、どうしても解き明かしておきたい 謎がある。コボルドが、アンブラン村の住民が土石によって作られたものと語ったことだ。 その点について、グレンは語った。 「元から奇妙なとこはあった。村の人間からは誰からも、生々しい感情が感じられねぇ。 ユルバンを除けばな」 同意するタバサ。昔の雪辱を晴らそうと必死に懇願してきたユルバン以外の人間は、コボルドの 脅迫に震える様子もなければ、事件解決後も喜びに沸く姿もなかった。全体的に、感情の発露が 一律なのだ。 料理の味つけも、村全体で同じであることに気がついた。どこへ行っても『違い』がない村……。 ここに住む『人間』は、アンドロイドか何かのようだった。 その疑問を、事件解決の報告とともにロドバルドにぶつけた時に、彼女から回答が得られた。 それは、思わず身震いしたくなるような内容だった。 「二十年前のことです。このアンブラン村はご存じのとおり、コボルドの群れに襲われました。 その際……村は全滅したのです」 ユルバンは二十年前に、コボルドはロドバルドが撃退したと語った。コボルド・シャーマンは 二十年前に『アンブランの星』を奪うことに失敗したと話した。だが、その話はそれで終わりでは なかったのだ。 ロドバルドの魔法によってコボルドが追い払われたのは確かだが、その時には彼女とユルバンを 除いて、村民は皆殺しにされていた。そしてロドバルドも致命傷を負っていた。生き残れるのは、 ユルバンのみ。だが実直な戦士のユルバンが、自分だけが生き残った事実を抱えて生きていけるだろうか。 そのため、ロドバルドは何十年も仕えてきた老戦士のために、『アンブランの星』を用いて 村の健在を偽装することにした。傷を押して村人そっくり、傍目からは人間と何も変わらない ほどに精巧なガーゴイルを大量に制作し、最後には自分もガーゴイルに置き換えた……。 村全体で料理の味が同じなのは、ガーゴイルは食事の必要がないからだ。その必要があるのは、 たった一人の人間のユルバンのみ。だから村の全ての機能は、ユルバンを中心に作られる。 フック星人が村人の身柄を要求したのも、ガーゴイルの技術を利用するために違いあるまい。 人間に限りなく近い操り人形……悪用しようと思えばいくらでも出来る。こんな僻地で、おぞましい たくらみが行われていたものだ。 これらの事実を知った時、グレンたちはすっかり青ざめていた。ロドバルドの姿のガーゴイルは、 最後にこう述べた。 「私たちは、ユルバンが寿命を迎えるとともに、活動を止めて土に還るようになっています。 その時が来るまで、この村の真実は誰にも口外しないで下さい」 アンブラン村を後にしたタバサ、シルフィード、グレンの三人は、帰路の途中で村のある 方角へ振り返った。 タバサたちはロドバルドの頼みに応じた。もちろんユルバンにも、何も話していない。 真実を教えるには、彼は歳を取り過ぎている。せめて最期の瞬間まで、『村を守り続けた』 という夢を見させてやるべきだろう。 グレンの見立てでは、ユルバンはもう余命がいくばくもない。数年後には、ガリアの片隅に ある日突然住人が一人残らず消えた村があるという怪談が語り継がれるようになっているかも しれない。 「あのユルバンさん、幸せなのかしらね。きゅい」 シルフィードはふとそんなことをつぶやいた。 「あの村は、ユルバンさん一人のために存在しているのよね。でも……全部が偽もの。本物じゃない。 それって、幸せなのかしら」 タバサは何も言わなかったが、グレンはこう答えた。 「今更、あの村でどうすんのが正しかったのかなんてことを言ってもしょうがねぇだろうさ。 けど……もし俺がユルバンだったとしたら、二十年前に本当のことを教えてもらいたかった とは思うぜ。あそこで行われてるのは、たとえ『優しさ』から生まれたものだとしても…… 結局は『夢』でしかないからな」 その意見に、タバサは内心で同意していた。ユルバンが守っている村の営みは、結局は 虚構であり……ユルバンの半生を虚しいものにしているからだ。 それともう一つ、タバサは今回の件で課題を背負った。それは、浅慮のためにまんまと 敵の罠に嵌まってしまったことだ。グレンがいなければ間違いなくお陀仏していた。自分の 本棟の敵はもっと強大なのに、今の段階でこんなありさまでは母を取り返せるものかどうか。 母の奪還のためには、もっと精進が必要だと、タバサは己を戒めた。 ……あの時の自戒は、最終的には無駄なものとなってしまった。そのことを残念に思う気持ちはある。 しかし今のタバサの心には、幸せな感情が溢れていた。心のどこかでずっと待ち望んでいた、 自分を救い出してくれる勇者に、遂に出逢うことが出来たから。 「……あッ、タバサが目を覚ましたみたいよ」 夢から覚め、おもむろに身震いをすると、トリステインの友の声が耳に入った。そしてその後に、 もう一人の男の子の声。 「ほんとか? タバサ、どこか怪我はないか? もうお前は大丈夫だからな」 自分に向けた慈しみが声音に溢れた、勇者の顔を、タバサは寝ぼけ眼で見上げた……。 前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/9168.html
前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔 ウルトラマンゼロの使い魔 第五十三話「コスモスペースから来た男女」 巡礼怪獣ニルワニエ 共生宇宙生命体ギラッガス 登場 地球人、平賀才人がハルケギニア人ルイズに召喚されたのと時を同じくして来訪して以来今日まで、 人々に牙を剥く怪獣、宇宙人を驚異の超パワーで粉砕してきた我らがヒーロー、ウルトラマンゼロ。 しかし、ハルケギニアを守るスーパーヒーローはゼロだけではない。彼の率いるチーム 『ウルティメイトフォースゼロ』の仲間たち――ミラーナイト、ジャンボット、グレンファイヤーに、 一時はウルトラマンガイアが時空を超えて駆けつけたこともあった。 今回はいつもと趣向を変えて、そんなゼロ以外のヒーローが直面した事件と、その中での活躍の一部を紹介しよう。 「もうッ! お姉さまったら、大人しすぎるのね! そんな風だから、あの小憎たらしい従姉姫に、 あんな好き放題されちゃうのよ!」 ここはトリステイン……ではなく、ガリア王国のアルデラ地方。ゲルマニアとの国境沿いを埋め尽くす “黒い森”と呼ばれる鬱蒼とした大森林に覆われた土地の上空を、シルフィードがタバサを乗せて飛んでいた。 今の台詞は、シルフィードが発したものだ。 「そりゃ、お姉さまの境遇はこのシルフィも理解はしているのね。でもね! ちょっとは文句とか つけてよね! わたしはあのバカ従姉姫にいじめられるお姉さまを窓から眺めて、鬱っているのね! ちょっとはやりかえすのね! きゅいきゅい!」 ここでタバサの現状を少しばかり説明しよう。以前にも語ったが、タバサの正体はガリア王族のシャルロット姫。 しかし伯父ジョゼフの戴冠と前後して父シャルルが暗殺。それが不幸の始まりとなり、シャルロットはそれまでの 日常を全て奪われてしまった。今は紆余曲折あってガリアの裏組織『北花壇警護騎士団』の第七号『タバサ』となり、 いずれ心を狂わされた母を取り返す、そのためだけに仇敵ジョゼフの配下となっているのである。 ジョゼフは己の娘イザベラを通してタバサに、まるで挑戦をしているかのように様々な難事件の解決を命じ、 タバサはその都度ガリアの領土を飛び回っている。今回もその一環。それだけならまだいいが、シルフィードが 怒っているのは、そのイザベラのタバサへの仕打ちだ。 イザベラは魔法の才能に恵まれたタバサと反対に、魔法の腕が低い。メイジの世界で魔法の実力は絶対であり、 イザベラは昔からタバサへの強い嫉妬心を抱いていた。そして王女となって優位を得た途端に、嫉妬心を剥き出しにして 呼び出す度にタバサを虐待するのである。今日は侍女にゴミを投げつけさせるという、あまりに屈辱的な仕打ちを働いた。 ……が、『タバサ』となって以来感情を失ってしまったかのようなタバサはそれにすら何の感情も示さず、ひと言の 文句もなかった。シルフィードがイザベラの所業より、そのタバサの振る舞いに頭を痛めるくらいであった。 ちなみに使い魔シルフィードの正体は、人々の間では既に伝説となった古代の幻獣、人間並みか あるいはそれ以上の知能を有する風韻竜イルククゥである。しかしそれを明かすと色々とまずいことになるので、 タバサはこの子供の韻竜に風の精霊の仮の名を与え、人前でしゃべらないよう厳重に言い聞かせている。 他人に聞かれてしまった時には、ガーゴイルということにしてごまかすことにしている。 話を戻そう。シルフィードがいくら文句をつけようとも、やはりタバサは表情一つ変えない。 遂にはシルフィードが根負けした。 「……まぁいいのね。それより、次はどんな厄介事を言い渡されたの?」 シルフィードが質問して、ようやくタバサは口を開いた。 「翼人の退治」 「翼人って、シルフィと同じ“精霊の力”を扱うあの翼人? それはまた大変な役目を押しつけられたのね」 任務の詳しい内容は、以下の通り。 アルデラ地方にあるエギンハイム村は、主に切り倒したライカ欅という木で生計を立てるきこりの村だ。 しかし近頃、森に原住する亜人、翼人との仲が急速に悪化し、既に衝突も何度か起こっているという。 戦況は一進一退で、タバサはもちろん村人側の応援として派遣されるのである。 そこまで聞いて、シルフィードは一つ疑問を挙げた。 「一進一退って……魔法の力を持たない人間じゃ、翼人に太刀打ち出来ないと思うんだけど」 「わたしもそう思う」 翼人はメイジの魔法とは異なる先住魔法――彼らの言うところだと『精霊の力』を扱う。 自然そのものを操作する術で、周りの環境に左右されるものの、基本的にメイジの魔法よりも 様々な部分で優れている魔法だ。よほど対策を練らない限り、魔法自体使えない平民では 勝てるものではない。 なおかつ、翼人が一人や二人ならまだしも、集団だという。エギンハイム村側には、どうあがいても 勝ち目はないだろう。 「それなのに、その村は一体どんな手を使ってるのかしら?」 「行けばわかる」 「それもそうなのね。それじゃ、スピードを上げるのねー!」 いささか奇妙なところのある今回の任務。だがタバサに断ることは出来ないのだ。ならば少しでも 早く終わらせてあげようと、シルフィードは飛行速度を上昇した。 さて、エギンハイム村の離れ、ライカ欅の森の入り口へと到着したタバサとシルフィードが目にしたものは、 まさしく『戦場』であった。だが自分たちの知る『戦場』とはあまりに異なるので、タバサらは思わず目を見張った。 「撃て撃てー! あの鳥どもを一匹残らず撃ち落とせー!」 「皆殺しにしろー!」 きこりであろう男たちの武器は、斧や弓矢……ではない。銃口からレーザー光線が飛び出る拳銃であった。 しかもハルケギニアで一般に流通している火縄銃のような武骨な外観ではなく、どんな技術で製造したのか わからないほどに綺麗に磨かれていた。ハルケギニアに次の言葉はないが、『近未来的』という言葉がよく似合う。 そして名前の通り鳥の如き翼を生やした亜人、翼人側の攻撃も、風や樹木を操る先住魔法ではなく、 レーザーを発する鋼鉄の棒で行っていた。両陣営はそれらの武器で撃ち合いをしているのだ。 魔法が存在するファンタジー世界のハルケギニアだが、この一画だけSFの世界のようであった。 「な、何なに!? これは何事なの!?」 木々の間に隠れて様子を窺っているシルフィードは、当然混乱していた。目の前に広がっているのは、 予想の斜め上を行き過ぎる光景だ。 「彼らの武器……」 タバサも声もなく驚いていたが、比較的冷静に状況を分析していた。 まず注目したのはもちろん、両者の武器。あれらと同じものはハルケギニアのどこにも存在しない。 ……いや、今は似たものがハルケギニアとは『別の場所』から持ち込まれて存在するようになった。 それはすなわち、才人が使っている変な銃だ。ならば両者の銃は……。 そしてもう一つ。両陣営に、それぞれの味方を鼓舞……と言うより焚きつけている者が一人ずついた。 「そこだ! 左下を飛んでいる奴の動きが悪い! そこから切り崩すんだ! 鳥類に人間の力を思い知らせるんだ!」 「負けてはダメよ! 返り討ちにしてあげなさい! 地面を這いずり回る虫に負けるなど、あってはならないことよ!」 村人側は、首に青いスカーフを巻いた男。翼人側は、黒い短髪の女の翼人だ。 タバサは争い合っている二つの陣営の、その二つの共通点を気に掛けた。 「うッ!? くそッ!」 ほどなくして、争いに変化が起こった。村人側の指揮者らしき男の銃がカチッカチッと 音を出すだけで光線を撃たなくなった。弾切れのようだ。 「おい、誰か新しい銃を……うわッ!」 男は新しい銃を求めるが、振り返った折りに運悪く木の根につまづいてしまい、バッタリと転倒した。 大きな隙を晒した敵を、翼人の一人が撃ち抜こうと狙う。 「うわぁぁぁッ!」 「あの人、危ないのね!」 思わず声を荒げるシルフィード。タバサが反射的に身を乗り出したが……それより早く 戦場に飛び込んだ何者かが男を引っ張り、光線から逃れさせた。 「大丈夫ですか?」 「あ、ああ……」 男を救った麗しい顔立ちの青年に目を留めるタバサとシルフィード。二人は青年に見覚えがあった。 ウェザリーの劇団に参加した美青年ミラー……その正体はミラーナイトだ! それがどうしてこんな場所に? 「ふッ!」 ミラーは懐から取り出した楔形の手裏剣を複数飛ばし、今にも光線を撃とうとしていた者の手より 武器を弾き飛ばした。人間、翼人関係なく。 「な、何するんだ!」 助けられた男が思わず声を荒げる。両陣営は驚いてミラーに注目し、戦いの手を止めた。 「私は旅の者です。近くを通りすがった際、この騒ぎを聞きつけて駆けつけました。一体あなた方に どんな事情があるかは知りませんが、こんなに激しい争いごとは感心できません。今のところは、 私に免じて戦いをやめてもらえないでしょうか」 ミラーはそう説明して両陣営に停戦を勧告した。普通なら突然割り込んだ者の意見など 聞き入られないだろうが、ミラーは静かながらかなりの迫力を全身から放っていて、 人間も翼人も思わず気圧されていた。 「何だ、あんたは! いきなり乱入して勝手なことを……!」 ただ一人だけ、村人側で戦いを駆り立てていた男が異を唱えようとした。が、ミラーの姿を よく見つめると、その口が急につぐむ。 「なッ……!?」 「おや……どうかされましたか?」 ミラーが視線を返すと、男は気まずそうに顔をそらした。何故か、翼人側の女も同じ反応を示していた。 「その人の言う通りよ! これ以上争わないで!」 「みんな、お願いだ! 武器を下ろして!」 ミラーの意見に賛同する者がそれぞれの陣営に現れた。翼人側は亜麻色の髪の美しい少女、 村人側は線の細い少年だ。 「アイーシャさま!」 「ヨシア!」 翼人たちと村人たちは、それぞれをそう呼んで困惑した。そこでようやく、タバサが場に割って入る。 「わたしはガリア花壇騎士、タバサ。ここは、わたしが取り仕切る」 「お城の騎士さま!?」 「騎士さままでいらしたのか!」 混乱を起こしていた村人側は、タバサの鶴の一声で武器を収めた。それにより翼人も撤退し、 争いは一旦中止された。 その日の夜、タバサは村長の家の一番の客間で、ミラーと向かい合って対話をした。まずはミラーから話し出す。 「まさか、こんな場所でタバサさんと会うとは思いませんでした。偶然ですね」 「わたしは、『シュヴァリエ』としてこの村の問題を収めに来た。あなたはどうして?」 「実はこの付近で怪光を見たという目撃談が相次いでいることを、グレンが巷の噂で聞きつけてくれましてね。 侵略者がまた何かの陰謀を張り巡らしているのでは、と私が調査に来たのですよ」 説明したミラーは、ふぅとため息を吐く。 「しかし、この村は大分厄介なことになっているようですね……。同じ土地に住む人間同士で抗争なんて」 村人から聞いた話によれば、翼人がきこりの仕事を邪魔するようになって木材が取れなくなってしまったという。 そうなれば、生計を木材の出荷に依存するこの村はおしまいだ。その理由なら、村人が翼人に攻撃するのも分からなくはないが……。 「翼人は亜人。人間と呼ぶのは、変」 タバサが突っ込むと、ミラーは肩をすくめた。 「そうでしょうか? 私からしたら、両者にそれほど違いがあるとは思えないのですけれどね。 何せウチのチームは、二次元人やロボット、燃える人間が同居してますし」 などと冗談を言っていると、タバサはドアの向こうに人の気配を感じ、そちらへ尋ねかけた。 「だれ?」 「ぼ、ぼくです……。ヨシアです」 昼間に戦いに割って入った少年だ。すると、ミラーが席を立って自分からヨシアを招いた。 「ちょうどよかった。君にいくつか話を聞かせてもらおうと思っていたんです。さぁ、どうぞ入って。 タバサさん、いいですよね?」 「構わない」 「え、えっと……あなたは?」 快く迎えられたヨシアは逆に及び腰になり、タバサと対等に話すミラーが何者か尋ねた。 「私はそちらの騎士さまの友人です。それより、君に質問があるんです。答えてもらえますか?」 「は、はい……! ど、どうぞ、何なりと」 部屋の中に通したヨシアに、ミラーが質問を始める。 「まず、この村の皆さんは翼人の方々との争いが、向こうが仕事の妨害をするからだと説明してましたが、 それは正確なのでしょうか? 比較的冷静な君の意見を知りたいのです」 すると、ヨシアは熱を込めて語り出した。 「それは大嘘です! 今までは翼人と上手く折り合いをつけてたんですけど、みんなが彼らの住まいのところの 木を奪おうとし出したから、あんな争いが始まったんです……」 うつむき加減になって、下唇を噛み締める。 「本当、みんな馬鹿だよ……。せっかく春先の問題が解決したのに、また争いを自分たちから起こして……」 「春先の問題? それはどういったものでしょうか」 興味を示したミラーに、ヨシアが順序立てて答える。 「翼人は季節ごとに巣を作る木を替えるんです。特に春は家族が増える季節だから、幹の太い ライカ欅を選ぶんですけど、村のみんなは翼人の選んだ欅が高く売れそうだって、取り合いに なりかけたんです。他にも木はたくさんあるのに、みんな欲張りで恥ずかしいです……」 「なるほど。ではその時は、どのように解決したんでしょうか?」 「それが摩訶不思議なことなんですけど……一触即発になりかけた時に、突然樹木みたいな 怪物が現れまして。こんな見た目です」 ヨシアが取り出した木のレリーフには、太い前脚はあるが後ろ足はない、大柄な怪獣の姿が彫られていた。 この場の誰も知らないことだが、この怪獣の名はニルワニエという。詳しいことは何も明らかになっていない、 4メイルほどの中型怪獣である。 「翼人も正体を知らないこの怪物を、初め俺たちは不気味がって追っ払おうとしたんですけど、 怪物はどれだけ攻撃を受けても全然反応しないで、ライカ欅のところにたどり着いて一体化したんです」 ヨシアの脳裏に当時の光景、ニルワニエが村を横断してライカ欅の元にひたすら向かう姿が描かれた。 「そしたら不思議なことに、欅が何本も急成長して林みたいになったんです! 俺たちが十分な量を 伐採しても余るほどになったんですよ。信じられないかもしれないけど、本当にあったことです」 「それで、翼人も巣を作る場所を確保できたんですね」 「はい。お互いこの怪物を、ブリミルさまのしもべの救い主とか“大いなる意思”の遣いとか 呼んで崇めるほどになりました。なのに……あの行商人が来てからおかしなことに……」 話は核心に近づいたようだ。ミラーが先を促す。 「あの行商人というのは、スカーフを巻いていた人ですね。彼は雰囲気がこの村の人とは 大きく違いましたが、何者なのでしょうか?」 「詳しくは分かりません。行商人とか言うあいつは、突然フラリと村にやってきたと思ったら、 ライカ欅をもっと伐採すれば、村は一層繁栄すると演説を始めました。みんなが、 翼人と無用な争いを起こしたって勝てないし仕方ないと言うと、あいつははるか東方の 武器だという妙な銃を配って、それさえあれば翼人にも勝てると主張しました……」 語るヨシアの表情がどんどん暗くなっていく。 「実際、あいつの持ってきた銃はとんでもない威力でした。それでみんなもすっかり乗せられて…… こんな風になってしまったんです……」 「ありがとう、あの武器の出所がよく分かりました。しかし、翼人もまた妙な武器を使っていましたね。 そちらの事情はご存知でしょうか?」 「それについては、わたしがお答えします」 急に窓の向こうから、人の声がした。振り向くと、窓の外に一人の翼人の少女が浮遊している。 「アイーシャ!」 窓を開くヨシア。彼女はヨシア同様、戦いを止めた翼人の少女アイーシャであった。 随分と仲睦まじい二人。聞けば、二人は恋仲だという。そのことを祝福するミラー。 「それは素晴らしい! 異なる種族で愛情の絆を結ぶのは、とても良いことです。が……今の状況は、 あなた方には心苦しいでしょうね」 「おっしゃる通りです……」 アイーシャは翼人側の経緯を、ミラーとタバサに伝える。 「人間たちが変な銃を手に攻撃してくるようになったのと前後して、翼人の同胞がわたしたちの元に 舞い込んできました」 「激励を飛ばしていた女性ですね」 「ええ……。彼女は、人間が恐ろしい武器を持って私たちを滅ぼそうとしている、私は対抗できる 武器を持ってきた、これで欲深な人間を返り討ちにしましょうと主張して……。わたしは反対してるのですけど、 みんな子育ての大事な時期に今更巣は変えれないからと、彼女の言うままに……」 ヨシアと同じく悲嘆に暮れるアイーシャ。そして二人は、ミラーとタバサに必死に頼んできた。 「お願いです! 無理を言うのは承知しますが、どうにかわたしたちの争いを止めて下さい! 争いは日々激しくなって、既に怪我人が続出してます。このままじゃ、大変なことになってしまうと思うんです!」 「俺からもどうかお願いします! お礼できることなんて何もないけど……この通りです! どうかッ!」 「……少し、相談させて」 タバサは断りを入れて、ミラーと囁き合う。 「どう思う?」 「やはり、よそからやってきた行商人という男性と翼人の女性が怪しいですね。森に囲まれた小さな村で、 ハルケギニアにない武器を気前よく配り、戦いを煽る男性。それと同時にどこからともなく現れ、 徹底抗戦を叫ぶ女性。……両者には確実に裏があるでしょうね」 と話し合っていると、ドアの外から人の足音と呼び声が聞こえた。 「ヨシア、どこだー!? すいません騎士さま、ウチの馬鹿がお邪魔してないでしょうか?」 「いけない、サム兄さんだ! アイーシャ、早く逃げて! 兄さんに見つかったらまずい!」 「え、ええ」 慌ててアイーシャを窓から逃がすヨシア。窓を閉めた直後に、戦いで村人の中心を果たしていた男、 サムがドアをノックし、ミラーに迎えられた。 「どうも、夜分遅くに失礼します。……あッ、ヨシア、こんなところにいやがったか! 騎士さま方に 失礼を働いてねぇだろうな!?」 「そ、そんなことないよ。俺は春の出来事をお話ししてただけで……」 「いいから、とっとと消えな! 俺はこれから騎士さまと話があるんだ。お前は邪魔だ!」 ごまかしたヨシアを追っ払ったサムは、タバサたちにこう告げた。 「騎士さま……実は、さっき行商人が夜の森の中に忍び込んでいきました。すいませんが、 奴の後を追跡して正体を確かめてきてもらえないでしょうか?」 その頼みに、タバサもミラーもやや驚かされた。 「あなたは、村の中心でしょう? どうしてそんなことを……」 「奴に怪しいところが多いこと、奴が来てから村がおかしくなってるってのは俺にも分かります。 けど、俺は村長の息子だから、村人たちの味方にならなくちゃならねぇんです。それで、 弟の恋路も応援できねぇで……」 サムは一見荒くれ者のようだが、実際は聡明で心優しい人間であるようだった。 「あんなすげぇ武器を持ってきた、やばい奴だ。こんなこと、他の人間には頼めない。どうか、お願いします」 深々と頭を下げたサム。ミラーはタバサと目を合わせ、コクリとうなずいた。 「分かりました。私たちが、この争いの真実を暴き出しましょう」 そうしてミラーとタバサは、行商人が入っていったという入り口から森の中へ忍び込んでいった。 シルフィードは目立つから留守番だ。 「こっちから、人の気配がしますね……」 ミラーが超感覚を発動して気配を探り、タバサを先導する。二人が草木をかき分け進んだ先に、 二人の男女がいた。問題の行商人と、翼人の女だ。彼らは空を見上げて、視線の先の大きな 発光体に向かって口を開く。 「……もうやめにしないか? 争いは十分に大きくなった! これ以上続けても、変わるものはないだろう」 「実験はこの辺りで終わりにして、次の実験に移りましょうよ」 発光体は強烈な光を放っていて、その正体は見通せないが、男女へ言葉を返す。 『馬鹿を言うな! 徹底的にやらねば、十分なデータは取れん! 実験はどちらか片方か、 もしくは両方が全滅するまで続行するのだ!』 「な、何もそこまでする必要は……」 『黙れ黙れぇ! もしや貴様ら、あんな蛆虫と羽虫どもに情が湧いたのではあるまいな!? だからそうかばうのか!』 「そ、そんなことはないわ」 慌てて目をそらす女。 「やはり彼らはつながっていたようですね。しかも、後ろで別の何者かが糸を引いている」 ミラーがタバサに囁いた。 『ともかく、実験の中断は認めん! 言っておくが貴様ら、妙な気は起こさないようにすることだ! 帰る場所をなくした貴様らが我々を裏切ればどうなるか、分からんとは言わせんからな!』 一方的に告げた発光体の光が徐々に消えていき、空に何もなくなった。男女は大きく肩を落とし、 踵を返してそれぞれ村と森の奥へ帰っていこうとする。 その時にミラーとタバサは、彼らの前に躍り出た。二人の姿を認めた男女はギョッと目を剥く。 「お、お前たちは!」 「まさか、今のを見てたの!?」 「ええ」 きっぱりと肯定するミラー。そうしたら、男女は殺気を剥き出しにした。 「知られたからには仕方ない……死んでもらうッ!」 男と女の姿が一瞬光り輝き、全く別の姿に変貌を遂げた。 男の方は胸に大きな傷跡を持つ、青みのかかったマネキンのような無機質な容姿の怪人。 女の方は、鋼鉄の羽と尾だけが構成パーツという実に奇妙な怪物となった。 『はぁぁぁッ!』 怪人は腕から、羽の怪物は飛び回りながら模様より光線を放ち、それぞれミラーとタバサを狙った。 だが予測していた二人は身を翻して攻撃をかわす。 『ふッ!』 ミラーは等身大のミラーナイトの姿に変わり、ミラーナイフで怪人に反撃した。怪人は足に ナイフがかすめてガックリ膝を突く。 『ぐぅッ!』 羽の怪物は木々の間を素早く飛び回ってタバサを撹乱するが、ミラーナイトには通じずに 同じようにミラーナイフを食らった。よろめいてスピードが落ちたところにタバサの冷気を受け、 羽の先端と光線の発射口が凍りついて不時着する。 『くそぅッ、強い……!』 毒づいた怪人をミラーナイトが取り押さえ、尋問を行う。 『案の定、この星の人間ではありませんでしたね。しゃべってもらいましょう。あなた方は何者ですか?』 観念した怪人は、かすれた声で自分たちの正体を吐露した。 『俺たちはギラッガス……。宇宙をさすらう種族の、追放処分を受けた身だ……』 前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔